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ひとつ、ふたつ。足を進める度にその次が重くなる。
＿＿...いかないで、なんて言ったら、君はどんな顔をしたのだろうか。
｢あ、ここでいいよ。きんときあっちだろ？｣
｢......あ、うん。...そう、だな。｣
日が落ちるのが遅い季節だと言うのに、あっという間に夜は来てしまった。
いつもの通り道だ。
ここでいつも手を振って別れて、｢また今度｣を約束して家に帰る。
...あぁきっと、今日はそれができない。
｢っ......シャー、｣
｢じゃ、｣
｢ぁ.........うん。じゃあ、ね。｣
またね、は言えなかった。
名前を呼ぶこともできなかった。
きっと俺が呼びかけた事には気づいただろうに、彼は何も知らなかったような振りをして俺とは反対の道へと歩いて行った。
ふと視線を向けた誰かの家の庭に、アサガオの植木鉢が放置されている。
小学生が持ち帰ったのだろう青い植木鉢にツルをまくアサガオの花は、少しばかり萎れていて。
もうすぐ枯れてしまうのだろうな、なんて、ぼんやり立ち尽くしながら考えた。
...俺のこの恋も、このアサガオが枯れる頃に、きっと。と。
ぐす、と。鼻をすする小さな音が、蝉時雨に掻き消されて消えてった。
シャークん今までありがとな
きんときこちらこそ。元気でね
はぁ、と。送信のボタンを押した所でひとつ、大きなため息を吐いた。
少しばかり熱を持ったスマホを額に押し当てる。
額が少し痛くなるばかりで、胸のつかえは取れてくれなかった。
1週間とは存外に早いもので、夏休みというのも残るところ今日だけになってしまった。
夏休み中でもなんだかんだほとんど毎日会っていた彼は、どうやら引越しの準備とやらで忙しいらしくあの日以来顔を合わせていない。
彼はもうすぐこの街を出るらしい。
先程届いたメッセージにそうあった。
結局、｢またね｣はあの日から1度も言えていない。
つきり。どうしたって胸が痛い。
心臓のさらに奥。奥の奥がじくじくと、痛い。
手を伸ばせば触れられるような距離にいたはずなのに、どうしても触れられない距離が遠い。
会いに行こうと思えば会えるのに、どうしてか気力が湧かない。
今日が最後なのに。...今日で、最後なのに。
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作者名：ローゼ | 作成日時：2021年8月12日 19時
