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近づいていた顔が、また俺の目線よりも少し上に行くのを追いかけるように視線を動かす。
ふと、いつの間にやら気にしなくなっていた月が目に入った。
綺麗な月だ。今日は雲もないから、尚更そう見える。
＿＿＿月が綺麗ですね、なんて言葉がある。
｢I love you｣を意味する、詩的な表現。
中学生に上がったくらいの頃には大体の人間が知っているような、告白の言葉。
それを、どうしてだか。
2歩ほど先を歩く彼に、今だけは言ってみたかった。
｢きんとき、｣
声をかける。
海色の瞳がこちらを向いた。
そんな些細なことが酷く嬉しい。
伝わったら、いい。
伝わらなくてもまぁ、いい。
太陽のような貴方を月に例えるのは、少しばかり気が引けるけれど。
｢月が、綺麗だね。｣
夜空を彩る月を見上げながらそう言った。
心臓はいつもより少しばかり早く鼓動を刻むのに、告げたその声は存外いつも通りで。
きゅ、と。缶を握る手に力が籠る。
彼の反応を見ようとそちらを向けば、彼にしては珍しい、戸惑ったような、不思議な表情が覗いていた。
...それは、どっちなんだろうか。
｢あー...｣
平均よりも少し高めの声が鼓膜を揺する。
無意識に少し肩が跳ねた。
その後に続く言葉に、ほんの少し期待している自分がいる。
｢...月は、ずっと前から綺麗だったよ。｣
俺の告白とも言えない告白に返されたその言葉は、残念ながら予想とは違った。
彼には伝わらなかったのだ。まぁ仕方ない。
つき、と。どこか胸が痛んだ。
大丈夫、また伝えればいい話。
明日も明後日も、きっと月は綺麗だから。
｢...あの、なかむ？｣
｢あ、や、なんでも。...てか、そろそろ電車来るくね？｣
｢あ、ほんとだやべぇ！...走る？｣
｢え、俺おしるこあんだけど！｣
｢飲み干せ！｣なんて無茶振りを言う彼に苦笑が漏れる。
缶を持っていない方の手を握られた。
少しばかり冷えた指先の温度が、俺の手の温度に溶けていく。
...いつかそのうち、指と指とを絡めて君と歩けますように。
なんて、らしくもなく月に願った。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
Hiroさん、リクエストありがとうございました！
すれ違い感...無いなぁ...()
でも割と両片想い感は出せたような気がします！w
リクエストの部分ほとんどないですが...でも書いててめちゃめちゃ楽しかったです。
ご期待に添えたかは分かりませんが、楽しんで頂けたら幸いです！！
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作者名：ローゼ | 作成日時：2021年8月12日 19時
