月が綺麗な日の話 nk→kn ページ13
なかむside
※Hiroさんリクエスト
リクエストありがとうございます！
｢月が綺麗ですね｣なんていう言葉がある。
確か夏目漱石が｢I love you｣をオシャレに和訳したもの...だったような気がするが、誰でも知っている有名な告白の言葉だろう。
それに｢死んでもいいわ｣なんて返したのが本家だったか。よく覚えてはいないが。
月を見て君を想う。
...この気持ちを伝えられたらと、何度だって考えている。
｢きんとき〜｣
がらり。立て付けの悪い教室の扉が音を立てて開いた。
開けるときに少し引っかかったような感覚がするのは、レールが歪んでいるからだとかなんだとか担任が言っていたような気がする。
早く直して欲しいとは思うものの、ボロい校舎じゃそれも仕方ない。
下校を知らせる鐘が鳴ってから30分。
本当はもっと早く来れる筈だったのだけど、顧問に捕まって片付けを手伝わされたお陰でこのザマだ。
一緒に帰る約束をしていた彼に遅れる旨の連絡をしたものの、もしかしたら先に帰ってしまったかもしれないという不安は頭によぎった。
けれどまぁ、それも杞憂だったらしい。
｢んぉ、お疲れ〜｣
｢...待っててくれたんだ。｣
｢何、置いてかれてると思った？｣
｢いや、かもなぁって。｣
｢はは、しねぇよ。｣
からり、彼が笑う。
きゅ、と心臓の辺りが熱くなった。
｢んじゃ帰ろうぜ｣なんて言いながら荷物を背負う君に、曖昧に返事をしながら教室を後にする。
首元を通り過ぎる風が、今日はやけにぬるかった。
｢もう大分暗いな...｣
｢まぁもうそろそろ冬だしね。｣
｢それもそうか。｣
今年ももう終わりに近づいていて、日が暮れるのは随分と早い。
少し前まではまだ夕焼け空が覗いていた筈の時間帯でも、空を月が彩るようになってしまった。
ちらり、視線を上げて月を見やる。
ほぅ、と息を吐き出しても、それが白く濁ることはない。
もうすぐ冬とは言ってもまだそんな季節だ。
中秋の名月と言うのだったか。確かもう十五夜は過ぎていたような気がするけれど。
｢...あれ、満月かな？｣
｢ん？ん〜...どうだろ、ちょっと欠けて...る...？｣
｢調べるか。｣
｢まじ？？｣
そんな中身のない会話をしながら帰路を歩く。
最寄りの駅まではあと10分もしないうちに着くだろう。
彼とは乗る電車が違うから、一緒に帰ると言っても駅までのたった十数分の道のりだけ。
今まで何度もそうやって帰ったくせに、それが毎度毎度いやに寂しく感じてしまうのはどうしてなのだろう。
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作者名：ローゼ | 作成日時：2021年8月12日 19時
