▽ ページ12
｢あほくさ...｣
｢なんか言ったか？｣
｢...別に。｣
言えるわけなかった。
言いたくもなかった。
どーせ無理なのは知ってたし。
どーせお前が俺を好きになんてなってくれないことくらい分かってたし。
ずっと紫煙に魅せられてばっかりなのも。
...まぁ、分かってた、し。
｢...なんで、煙草なの？｣
｢何が？｣
｢飴とかでもいいじゃん。害ないし。｣
｢あぁ、そういう話ね。...なんで、だろうなぁ...｣
そうだよ。飴でいいじゃん。
煙草なんかよりよっぽど口寂しさだって紛れるだろ。
でもそれでブドウ味の飴ばかりであれば、それはそれで腹は立つのだけども。
｢...煙、が。好きでさ｣
うそつけ。
思考回路は同じだったらしい。
元々そんなに吸う質でも無かったくせに、彼奴と別れた途端にこれだ。
面影なんて探すなよ。
そんなもんには1ミリグラムだって入ってないんだから。
虚しくなるだけだろ。なんでやめないの。
苦しいだろ。なんで。
...どうしていつだって、苦しい方ばっかり選ぶんだよ。
｢ばかだな、｣
｢は？なんでいきなりディスられてんの俺。｣
｢ふ、ばーか。｣
｢はぁ？？｣
彼奴がお前を好きじゃないのなんて分かってた癖に、そっちを選ぶお前も。
お前が俺を好きにならないことなんて知ってる癖に、好きになり続けた俺も。
...みんな、ばかだよ。
煙草が嫌いだ。
全部持っていくから。
キスをしたらどんな味だろう。
苦いのかな。甘いのかな。不味そうだな。
それでも夢を見ずにはいられない。
いつか、その視線が、興味が、関心が。
俺に向いて、俺だけ見つめて。
紫煙のことなんてぜーんぶ忘れて、ついでに禁煙して。
君が、俺を好きになってくれたら、なんて。
紫煙を飲み込んでいく空に、魅せられてくれたら、なんて。
......くだらない、かなぁ。
くだらない、なぁ。
ベランダの窓が閉められる。
どうやら煙草は吸い終わったらしい。
煙草の臭いの中に埋もれた、ほんのちょっぴりの彼の匂い。
...それが、どうしようもなく落ち着くなんて。
あぁ、だから嫌いなんだ。煙草なんて。
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作者名：ローゼ | 作成日時：2021年8月12日 19時
