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ページ46

『...で?』
『別れない?多分もう無理だよ。』
『............、分かった。』

予想していた、あまりにも予想通りの、できれば言って欲しくない言葉だった。
口に含んだアイスコーヒーを数秒かけて飲み込んで、できる限り声が震えないように頷いた。
それを見て彼は久しぶりに笑って、自分の注文したコーヒーを飲み干して席を立った。

「ぁ、」

声が出た。
ともすれば店内のBGMで掻き消えそうなくらいに小さな。
きっと彼の耳には届かなかった。
無意識に伸ばしていた手は空を切った。
結露で濡れた右手を、誰もいない向かいに伸ばしていた。

赤い背中が見えなくなって、ようやく手を引っ込めた。
「今までありがとう」くらい、言ってみればよかった。
...それくらいは言ってくれるって、どこかで期待してた。


名前すら呼べなかった。
呼んですら貰えなかった。
1度だって目は合わなかった。
最後の最後まで、こちらを見てはくれなかった。
最後に見た笑顔だって、皮肉にしたって酷すぎるものだ。
もう終わりか。...そっか、終わったのか。

「...終わった、のか。」

涙すら出せなかった。
別れたくないと駄々を捏ねてやれば良かった。
めんどくさい彼女そのものだ。馬鹿みたい。
馬鹿みたいだ、ほんとに。

好きだった。これでも。
好きだったんだ。これでも。
案外ちゃんと好きだった。
普通の恋人を夢見てた。
友達だった頃と変わらない、軽口を言い合ってはたまに甘いキスをするような恋人になれるとばかり思ってた。
1枚の壁を張り替えただけで、こんなにも変わってしまうのか。
こんなにも噛み合わなくなってしまうのか。

近くなると思ってた距離は、前よりも随分離れてしまっていた。


好きだった。好きだったよ。これでも。

この言葉ひとつ言えていれば、思い描いた恋人になれただろうか。
彼も、俺を見て笑ってくれただろうか。
1度は視線も合っただろうか。
...漏らした小さな言葉も、届いただろうか。

好きだった。好きだったよ。ねぇ。

ねぇ、あぁ、ねぇ。



「いかないで...」


あの時これを言えてさえいれば、伸ばした手は届いただろうか。

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作者名:ローゼ | 作成日時:2020年8月8日 18時

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