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紛れも無い、彼から発せられたその言葉。
彼は、俺に「誰」と聞いた。
...忘れ、ちゃったかぁ...。
もう、覚えてないのか。
友達だった事も、恋人だった事も、手を繋いだ事も、キスした事も、全部。
全部、忘れられたのか。
...俺は、覚えてるのにさ。
「あ、ごめんなさい。間違えました。」
他人を装って、そんな台詞を述べた。
忘れられてもいい、なんて、嘘だった。
忘られるなんて、絶対に嫌なのに。
覚悟なんて、出来る訳が無いのに。
それでも、強がって。
強がって、無理をして。
でも実際、忘れられたらそんな無理も、なんの意味もなくて。
胸が、張り裂けそうな程痛くなって。
今にでも大声で叫びたかった。
前みたいに、彼の手を取って、繋いで、抱きしめて、キスをして。
...恋人に、戻りたかった。
零れそうになる涙を必死で堪えて、覚束無い足取りで家に帰った。
...いっぱい、残ってるのになぁ。
赤い宝石がはめ込まれたネックレス。
俺の誕生日に、彼がプレゼントしてくれた。
可愛らしい、レッサーパンダのぬいぐるみ。
ゲーセンで中々取れなくて苦戦してたのに、彼が1発で取ってくれた。
クローゼットには、彼が忘れて行った赤いパーカーがあるし、彼が好きだからと買い置きしておいた、アイスだって残ってるのに。
他にも、いっぱい残ってるのに。
...俺の周りには、いっぱい、思い出が残ってるのに。
「思い出してよ...。」
ポロリと、ついに涙が零れた。
必死で堪えていたのに、1粒でも溢れれば、もう堪えられなくて。
拭っても拭いきれなくて。
口からは、嗚咽と、もう他人になってしまった、彼の名前ばかりが漏れる。
「もう1回、好きって言ってよ...。」
もう1回、抱きしめさせてよ。
もう1回、キスをさせて。
もう1回......俺の名前を呼んでよ。
＿＿＿＿
＿＿
＿
気づけば、朝になっていた。
昨日は泣いていたのか、目元は真っ赤に腫れていて。
喉も、心做しか痛かった。
...でも、なんでだろう。
胸が、心が。凄く痛くて。
なんで自分が、こんなに空っぽなのか、分からない。
「なんで、泣いてたんだっけ...？」
今まで隣には、誰かがいたんだっけ。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
忘愛症候群
発症条件:不明
症状:好きな人(片想い相手や、恋人)の事や、その人に関する全ての事を忘れてしまう
1日で忘れる場合もあれば、徐々に忘れて行く場合もある
1度思い出しても、また直ぐに忘れてしまう
治療法:愛する人の死
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作者名：ローゼ | 作成日時：2019年6月22日 7時
