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とある上司の物語 01-02 ページ3

『十年だ』


その時間の長さを宮園はいつも考える。

何千年も続く歴史の中の十年ならば、特に価値を持たない瞬く間なのかもしれない。

けれど二十八年しか生きていない宮園にとってのこの十年は、
人生の半分に相当し、重要な意味を持つ時間だった。


『よくもまあ、生きてここまでこれたもんだ』


俯き加減に宮園は呟く。

調査部諜報課に所属し、世界中を巡った。

内紛が続く地域や、戦争をしなくとも危険な地域。

そういうろくでもない場所が主な赴任地で、それは特務課に異動してからも変わらない。

正直、明日もわからない身の上だ。

道の端で転がり人生を終えることになる可能性は常に存在している。

実際にそうやって幕を閉じた同僚だって、もう何人も見てきた。


『自分の選び取った道だから、この仕事に文句を言うつもりはない。
望んだ結果だしな。初めはこれでも十分な人生だと思っていた』


蓮蓬の最下層でゴミのように生きてきた十代に比べれば、ずいぶんな進歩だとも思ったものだ。

ただ、と自嘲の笑みを浮かべる。

顔を上げるとまっすぐにこっちを見る麻生の視線とかち合った。


『どうやら長く生きられればそれはそれで、欲が出てくるものらしい。
俺は最近、この先のことについても考える』

この後もさらに十年、人生が続いていくものだとしたら。

仮定を脳裏に浮かべてみた時に、真っ先に考えるのは麻生のことだ。

なし崩しのように続くこの関係が果たして最良であるのだろうか。

疑問に対する答えは、本当は出ている。

このままでいいわけがない。


「この先ねぇ」


麻生はもう吸えなくなった煙草を灰皿へと落とした。

手持無沙汰になった手を白衣のポケットへと突っ込む。


「まあ、そろそろじゃないかとは思ってたんだけど」


見慣れた苦笑だった。

そしてそれは宮園の欲しい反応ではない。

ぐっと拳を握り、意を決する。


『お互いいい歳だからな。潮時だろう』


思っていたよりは普通に告げることができた。

宮園はそんな自分に驚く。

言葉にすべきかどうか悩んでいた時間に比べれば、一瞬の出来事だ。


『俺は家族が……人並みの幸せが欲しい』


胸の底に眠り続けていた願望が、明確な形を持って膨らみ始めたのはいつの頃からだっただろう。

結婚する同僚やその辺を走る子供に覚える羨望は、日毎に大きくなっている。

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作者名:茄恋 | 作成日時:2017年12月21日 0時

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