とある上司の物語 01-13 ページ14
「いいことを教えてあげるよ。嘘っていうのはね、ああやって吐くんだ」
『うそ……？』
「本当に切りたいなら隙なんて与えちゃいけない。じゃなきゃ僕みたいなのは、どこまでもつけ込むからね」
トン、と無防備な胸を押され、宮園は茫然とする。
『嘘なのか……？』
「嘘だよ。馬鹿げたことだなんて思ってないし、いつだってやり直したい。
誰に跨ってても構わないなんて、そんなわけないでしょ。
僕は君が《結婚して子供が欲しい》って言うから、身を引いたんだ。
なのにこんな不条理なことってある？」
さすがに腹立たしいよ、と麻生は言った。
宮園が投げ出した通信端末を拾い上げ、流れるような動作で画面を弄る。
「ありえないよ。大人しく幸せな家庭を築いておけばよかったものをさぁ、よりにもよって一誠くんなんかと」
液晶には数時間前、斐之嵜の腕を掴んで自分のほうへと引き寄せる宮園の画像が映し出されている。
唇が重なり、粘膜が触れ合うともう駄目だった。
局内で行為に及ぶわけにはいけない、
と考える理性が残っていたのが奇跡的に思えるぐらいだ。
微笑む斐之嵜を引きずるようにして、その場を立ち去る
――端末の中にはその一部始終が収まっていた。
「他みたいに一回きりのことなら、見逃してあげないこともなかったけどね。もう一年だ」
『なんで知ってるんだ……』
「なんでも知ってるよ。しおりちゃんは僕の執念深さを舐めないほうがいい」
大人しく引き下がったのは、宮園が望んだものが《家族》だったからだ。
五年前と同じように、煙草を取り出しながら麻生は言う。
「五年あれば充分だったのに。残念だったね」
『残念って、何がだ』
「僕を止めるためのカードがなくなっちゃったんだよ。
君は二度と逃げられない」
「麻生部長」
喫煙所の硝子戸が開く。
顔を出したのは白衣を着た開発部の女性職員だ。
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作者名：茄恋 | 作成日時：2017年12月21日 0時
