獣の森の王子様ーSide Storyー【男主】 (ページ11)

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とある上司の物語 01-10 ページ11

「ゆずっちゃんの子供、産まれたんだって」

麻生の手には通信端末がある。

宮園が貸与されているものより大きくて薄型のそれは、技術三課で鋭意開発中の試作機だった。

「元気な男の子だよ。
髪はゆずっちゃんと同じ色で、でもパパ譲りの小さい耳が生えてるらしい。
まだふにゃふにゃだけど、もうちょっとしたらきっと劇的に可愛くなるんじゃないかな」

『獣人と東系人のハーフなんて前代未聞だな』

「そんなこともないよ。
トリニスタが臓琦する以前は獣人は今みたいに隔離されていなかったし、
さらにその前の有史以前の文明においては、彼らは多数派種族だったんだ」

『……そうなのか？』

「ブレイ・ブルグの砂の中から出てきた文献によれば、ね。
で、そういうのは獣人だけじゃない。
龍人族やフレイユ族や瓏煉族なんていう少数民族のほとんどが、以前の世界では多数派だったんだって」

想像もつかない世界だ、宮園は眉根を寄せる。

麻生が笑みを浮かべた。

「そういう時代ではさ、むしろ僕らのほうが少数派だったんだよね。
それが逆転したのは『審判』が起きて文明が崩壊したからで、それは言うなれば既存の概念を打ち破ること得られる革新と同義だよ。
世界は常に進化し続け、常識は塗り替えられていくんだ」

今は監理局の一部の者にしか使用できない通信端末も、いずれは世界中で流通することになる。

軽量化し、より便利になってそれが常識と化した時に、手紙や伝令によって言葉を交わした時代は終わるだろう。

妊娠や出産だって、そうだ。

「同性カップルが自然妊娠するなんて今は異常なことに思えるかもしれないけど、
僕が考え出したこの選択肢が当然のものとして受け入れられる社会は、いつの日か必ずやってくる。
そうなったら《家族が欲しいから、愛してるけど別れてほしい》なんていう愚かかつ悲劇的な展開は、避けられるものになると思うんだ」

『愛してるけど、なんて俺は言ってない』

記憶をねつ造するな、と苦言を呈す。

五年前にこの喫煙所で交わした言葉や麻生の何気ない仕草、そのすべてが宮園の中には鮮明に残っている。

だから断言できた。
愛してるなんて恥ずかしい台詞は一度だって言っていない。