【リレー小説】義ノ浦学園・演劇部の日常生活はちょっとおかしい！？ (ページ11)

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驚きの舞台【如月志雪】ページ11

幕が開き、中世ヨーロッパのような町並みが見える。
先程見た食品サンプルのように、この町並みもまた、本物みたいだった。
燃えるように赤いレンガの家。色とりどりの花が咲く花壇。それから、ところどころにひびがはいった井戸。どれも本場からそのまま引っ張ってきたみたいにリアルで、すぐに如月を中世ヨーロッパの世界へ連れ去った。

少し経ち、ヒロインらしき女性が舞台に表れる。
この人もまた美形で、何かに見とれたような表情をして井戸を覗き込んでいた。
うまいな。ふと、そう思った。こういった中高生の演劇は何度か見たことがあるが、この演劇部の劇はずば抜けて上手い。
きっとヒロインらしき女性は今恋をしているのだろう。表情からそれが、手に取ったように分かる。
表情で演じるのはとても難しい。大きく演じ過ぎても、小さすぎてもダメなのだ。本当に、その物語を体験しないと出せないような表情。体験したって、演じる役とは全く違う表情になるかもしれない。いくら時間をかけてもできないような難しさ。それを彼女はやってのけている。
如月はごくりと唾を飲んだ。
どく、どくとうるさい心臓の音を聞きながら、真剣な表情で舞台を見る。

ふと、舞台袖付近から、兎佐伎が見えたような気がした。

「ちょっとエミリー！またあの男のこと考えてたの？あんなのよりもっと相応しいのがいるでしょう。さっさと乗り換えちゃいなさいよ！」

ぴしゃり。雷が落ちたような、芯が通った声が響く。
如月は目を見開いた。

その声の主は華奢な女の子で、クリーム色のロングヘアをゆらゆら揺らしながらヒロイン、エミリーの方へ歩いていった。

とても可愛らしいメイクをされているが、如月には分かった。あれは兎佐伎先輩だ。特徴的な顔立ちだったから忘れるわけがない。
いや、兎佐伎先輩があんな表情、声をするか？如月が見た感じではそんな印象ではなかった気がするが、裏ではあんな感じなのか？それとも、双子とか兄妹とかか？

いつの間にか立ち上がっていたが、そんなことはどうでもいい。如月は食い付くように兎佐伎の演技を見ていた。

「エミリー…。…大丈夫かしら、あの子。…何もないと良いんだけど…。」

やっと短いマリアの出番が終わった。如月は相変わらず立ち上がったままで、口を開け、狐につつまれたような顔で、照明が落ちた舞台をじっと見つめていた。