28個目 sideなし ページ30
「ゼン殿下」
背中を向け歩きだそうとするゼンをAは呼び止めた。
「おい、堅苦しいのはなしだと…」
ゼンがこちらを振り向きながら小言を言っていたがAの顔を見て口を噤んだ。それほどまでにAは真剣そのものだった。
「タンバルンへの白雪さんの付き人の件。私も同行してもよろしいでしょうか」
その言葉にA以外の全員が息を飲んだ。
「イザナ殿下に付き人は1人だと話したのは重々承知しています。ですが、私も白雪さんを守りたいんです。ここに来て私は何も出来ていない。もうこのまま何も出来ないのは嫌なんです」
ゼンが真っ直ぐAを見る。Aの表情はいつも通り無表情のままなのに瞳だけがグラグラと揺れていた。
「確かにまだ私は力不足です。まだオビさんに教わる事が沢山あります。それでも私は頑張りたいんです。お願いします」
Aはゼンに向かって頭を下げた。ミツヒデ、木々、オビの3人は固唾を呑んで2人を見守った。
はぁっとため息をつきゼンがAの頭をふわりと撫でる。
「…分かった。いいだろう。兄上に掛け合ってみる」
Aは顔を上げた。
「…いいんですか？」
「頼んだのはおまえだろう？俺はおまえの心意気を汲むだけだ。但し、上手くいくとは限らんからな」
「あ、ありがとうございます！」
Aは勢いよく礼をした。それを見てゼンはくるりとこちらに背を向ける。
「それじゃあ、今度こそ白雪に報告してくる」
ゼンは4人の元を去ろうとした。しかし、ピタリと足を止める。
「A！これおまえにだ」
ゼンは思い切り振りかぶると何かをこちらに向かって投げる。突然名前を呼ばれて驚いたAだったが何とかその投げられたものをキャッチした。Aが手を開き中を見ると銀色の何かがキラリと光った。
「！…これ、身分証」
Aが持っている身分証にはクラリネス第2王子付伝令役と書いていた。
「ああ、遅くなったけどな」
「私なんかがもらっていいのですか…？」
Aはゼンに聞く。その表情は薄くではあるが不安げだった。
「何言ってるんだ、おまえは俺の味方だと思った。今の言葉でおまえは白雪を守ろうとする気持ちがあると理解した。そう判断したのは俺の間違いか？」
「！…間違いでは、ありません」
Aは手の中にある物をぐっと握る。
「…ゼンさん、本当にありがとうございました」
Aはもう一度深く頭を下げた。ゼンはその頭を軽く撫で白雪の所へと向かって行った。
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作者名：あす | 作成日時：2018年12月1日 17時
