天邪鬼を許して?−Tatsuya− ページ9
「好きだ」
そう初めて耳にしたのは中学一年の夏。
声を大にしてイケメン!とは言い難いが、お調子者で周囲に人は絶えないタイプのその男は、何を血迷ったのか私に告白をしてきた。
それなりに仲が良いのは認めるけれど、この瞬間まで“恋愛”の“れ”の一文字すら記入されたフラグは視界の隅にさえ存在していなかった。
「…」
「ちょーい?いちこさーん?どこ行くの」
「ほら、罰ゲームか何かなんでしょう?」
「人の一世一代の告白を罰ゲームにすんなよ!」
それでなくともつり目がちの、あまり良いとは言えない眦を持ち上げてふくりと頬を膨らます。
ごめん、可愛くない。
「そうね…考えとく」
「お前、そう言って先伸ばしにするだけしてイジるなよ?」
「それが希望なら考えとくわ」
「うっわ…やらかした…」
それが始まりだった。
いつだって鋭い視線でまっすぐに私を貫いて、他の含みを邪推する余地も無いほどにストレートな言葉をぶつけてくる。
その姿を好ましいと思ってしまった。
辰哉は言葉を放ちながら、それでも私の嫌がることはしたくないと、友人としての触れ合い以上を強制はしない。
他者にあまり興味を持てない私にとって、辰哉が提示してくれているこの距離はちょうど良かった。
「いちこ、愛してる」
しかしながら最近、鋭い印象を受けるその目に押さえきれないと言わんばかりの感情がありありと浮かんでいる。
↑上記の感情以外など皆無の、蕩けんばかりの甘い視線で私の髪を一房。
柔らかく私の一部に唇を寄せて、愛の言葉を囁いた。
「…ありがとう」
「お?」
「気持ちは受け取るわ」
「なんでだよ!!」
二人きりのLDKのソファーの上。
隣り合っての愛の言葉を袖にした私に、辰哉はお調子者に戻って一言。
くすくす忍び笑いを洩らす私を恨めしそうに見つめて、更に一言。
「いつまでイジんのよー」
「もう少し」
「そう言ってもう十年経つんですけどー」
「…やめる?」
「やめねぇ」
食い気味の鋭い反論に、ギラリとした“男”の視線を共に注がれてぞくりと肌が一つ震える。
とっくに真意はバレている。
それでも無理強いをしない辰哉と言うイイ男を釘付けにしたくて、負け戦だと知りながら藻掻く私は、誰にも内緒の“愛言葉”を口にした。
「辰哉、コーヒー」
「たまにはお前が淹れろよ…良いけどさ」
“辰哉の”がのみたいの。ずっと未来まで。
遅咲きのゆー−Ryohei−→←だいす…!−Daisuke−
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作者名:Fin. | 作成日時:2019年7月15日 23時