MISSING TWINs (ページ5)

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Ⅳ ページ5

『パパ？ママ？』

ひょこりとリビングを覗き込めば拡がる
赤。
一瞬、最期の赤が脳裏を過り、聞き覚えの無い声も蘇ってきた。

『ママ？』

床を覆う赤の中をピチャピチャと音をたてながら母親役の女優さんに近づく。
視界の隅で母がハラハラと見守っている。

『パパ？』

揺すっても目覚めない母親を諦め、父親役の男優を揺する。
こちらも微動だにしない。

「あれ？芹くんどうしたんでしょう？」

「しーっ」

本来なら大泣きするのだが、脚本を読んだ時から思っていた。
齢４つの子供にとって例え血が流れているとはいえ、それをすぐに死と認識できるのかと…。
私を頬を膨れさせ、涙目になりながらその部屋を出た。
そしてセット裏で待機していた際に使用していた、自前のブランケットを手に戻る。

『パパとママ、ねんね。こーちゃんもねんねする！』

二人にブランケットをかけ、その間に体を滑り込ませた。
衣装は汚れてしまった。
どうか、私の意思を汲んで欲しい。

「セットの照明を朝にして、鳥の鳴き声を」

「はい」

チチチ…と鳥の鳴き声が静かなセットに響いた。
監督さんに感謝を抱きながら、目元を擦って起き上がる。
再び両親を揺すり、どうやっても起き上がらない両親を前に、やっと大声で泣き出した。

『ま、ママぁぁぁぁぁああ、ぷぁ、ぷぁぱぁぁぁぁああぁぁ！！』

わんわんと泣き出した声を聞きつけて、待機していた演者さん達がリビングに駆け込んできた。
ザワザワとする中で、私はただただ両親の服を強く握りしめて、天を仰いで鳴き声をあげさせた。
時折、泣きすぎて噎せた演技も織り混ぜながら。

「カット！」

プツリと私の声が止み、長いこと伏せたままだった両親役が起き上がる。

「はぁー、ビックリした…芹くんいきなりアドリブぶっこむなんて、度胸あんなぁ」

「す、すみません。僕が４つなら、多分死ぬってこと分からないなぁと思って…」

思わず、と俯いた私に注がれる視線は良し悪しどちらともつかず、監督さんが腕を組んで何事かを考えていた。

「す、すみません…勝手なことを…」

「…いや、良かったよ。よく脚本を読み込んでたんだな。素晴らしい演技だった」

「あ、ありがとうございます！」

「次からは気になったら相談してくれると有難い。他の演者の動きも変わるからな」

「はい！皆さん、勝手してすみません…」

皆さん良かったよと私の頭を代わる代わる撫でて、たくさん褒めてくれた。