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診察券を手に相手を追いかけたはいいが、気付くのが遅く完全に見失っちまった。
降りしきる雨の中で、ｱﾀｼは暫くそのままでいた。
……が、それは直ぐに終わった。
『あ、ああああの!!!!!!!』
声のした方を見れば、さっきの男の姿があった。
鞄から少し顔を出した犬が此方を見つめている。
『…………なんだよ』
何故か冷たく反応してしまった事に少し後悔しながらも、相手の様子を窺う。
『これ、良かったら使ってくだひゃい!!!!!!!』
それだけ言うと、男はｱﾀｼに傘を手渡し今度こそ行ってしまった。
『……っふ、何噛んでんだよ』
男の必死さに、ｱﾀｼは思わず少し笑ってしまった。
『…ｱﾀｼの事、怖いのか心配なのかハッキリしろよな』
落し物を返す筈が、更に物を借りてしまった。
しかも自分よりも気弱そうな男に。
でもどこかこそばゆく、何年ぶりかに感じたこの気持ちも、悪くないなと自分に言い聞かせ、今日の所は家路につくことにした。
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続く
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作者名：紫雨 | 作成日時：2018年5月3日 2時
