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『せんせ、夏休み…なんだけど』

『え?』

『ど、どっか…ううん。
どこにも行かなくてもいいから……その』

『…どこにしろ、プライベートで会うのはダメだ』

『あ…そうだよね、ごめんなさい』


生ぬるい扇風機の風を浴びながら、伊野尾は顔を真っ赤にして白飯を頬張る姿、その微妙な変化に気づけないでいた。
それに、どっかに連れて行って欲しいと言われることを想定してしまったばっかりに『その』の後の言葉を聞いてやれなかった。

俺よりずっと、この関係を大事に守ってきたのは
伊野尾なのに。
大層傲慢な返事をしてしまった事を、
『じゃあ、せんせ。またね』の声を聞くまでに気づけなかった。


「……はぁ」


そしてここに戻るわけだ。

明日から夏休み、今日が伊野尾との昼休みも最後。


「せんせ、お弁当食べよ」

「…ああ」


空元気な声が俺の胸をまたきゅうと締め付ける。
…大人になんて、なるもんじゃないな。
結局最初に出した声が『ああ』なんだから。

八乙女の言うように確かに瞼が重そうだ。
ほんのり赤い。
伊野尾は躊躇わずに隣の椅子に腰掛けると、
水色のつつみと桃色の包みを並べた。
紐は両方白だ。


「今日のおかず、なんでしょう」


いつも通り、にこりと笑う。


「……なぁ、伊野尾」

「な、なぁに」

「昨日の続き、聞かせてくれないか?」

「ふぇ…?」


一瞬で両目に涙が溜まる。
ああ、やっぱり…原因は俺だったらしい。

手が勝手に頬に触れた。
こぼれ落ちて欲しくない、これ以上。
学校で泣かせたのがこれで二回目になってしまった。


「つ、づき…」

「ああ…途中で遮ったから」

「でも…めいわ、くだし……だから」

「迷惑かそうじゃないかは、聞いてから決めるもんだ。聞く前に決めるもんじゃない…だろ」

「……っ」

「だから………すまん、教えてくれ」


必死な男の顔なんて、格好悪い。
そう思うのはきっと年齢のせいだろう。
イマドキの輩はそんな事さえ軽々やってのける。
相手の為にできることが、俺よりずっと…


「夏休みの、講習のあと…っ」

「…講習のあと?」

「数学、教えてほし、くて…」


頬にある俺の手首に、白くて長い伊野尾の指が触れた。
ああ、熱い。
どこの誰よりも健気な願いに
胸がまたきゅうと痛くなる。

伊野尾の成績に、俺の教えなどは要らないだろう。
そこに含まれる愛らしい目論見に目眩がしそうだ。

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.→←夏休みの前に(yb×in)



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馬酔木(あせび)(プロフ) - しめじさんのお話大好きです!待ってました!更新してくださってありがとうございます!!! (2020年8月7日 16時) (レス) id: 71804477e1 (このIDを非表示/違反報告)
らら(プロフ) - 2番目の恋人のスピンオフ嬉しいです!大好きなお話で何度も読んでます。 (2020年8月6日 20時) (レス) id: 1dd4eecdbd (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しめじ | 作成日時:2020年8月6日 15時

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