となり (ページ4)

今日:4 hit、昨日:7 hit、合計:76,583 hit

酔いどれ王子(yb×in) ページ4

--

社会人のふたり
そういう描写有

--

小雨が降っていた。
それから、伝えられた時間よりずっと帰らないから。
仕方ないな、と思いつつも頬が緩むのは仕方ない。
共有の車を走らせてビュンビュン景色を流していく。暖房、あんまり強く付けないでおこう。
きっとお酒をたらふくなんでいるだろうから。

「…っと、ここだっけ……？」

駐車場のない狭く小さな居酒屋。
平仮名で書かれていたから見逃しそうになった。
あんまり長く止めてられないのに、恋人は相当飲んでしまって居るらしい。
だって、いつもならちゃんと漢字ならその通りに打ってくれるから。

ふぅ、とひと息ついてから車を止めて明かりの漏れる店内の扉をスライドさせると。

「やぶさぁん、２軒目どうしますぅ？」

「んー、どうしよっかなぁ」

へにゃへにゃの雑巾みたいな声が聞こえてきてムッと顔が歪む。
薮はそんなに露出度の高い服なんて……

「あっ、いのおー、けいちゃーん」

「っ…！」

けいちゃん、って呼ぶ時は大体べろべろの時。
周りの…多分同じ会社の同僚の人達が一斉にこっちを見るものだから耳まで熱くなりそうになる。
ほんとに、ばかじゃないの。
文句のひとつでも言おうかと思ったが、公共の場で喧嘩はよくない。

…いい歳だし。

よたよたと鞄を持ってこっちへ寄ってくると、
これまたへにゃへにゃの笑顔でぐしゃりとこっちに覆いかぶさってくる。

「ちょ、やぶ」

「きょー、夜ゆっくりしよぉなー」

「…っ、ばか」

「へへ」

へへ、じゃないでしょ。
でもなんだか、女の子の隣にいる時より気を許してそうな顔をするし、身体中熱くなっているのが気がかりになる。
こんなに飲むこと、あったかな。
自然と背中をさすっていて、すぅと力が抜けるのを感じた。
……ああ、そっか。

「あのぉ、大丈夫ですか？」

「えっ、ああ…大丈夫です。車で迎えに来てるんで」

まだじっと観察されていたらしい。
とりあえずお辞儀を何度か繰り返し、慌てて居酒屋を出た。
お会計…してるよね？

「やぶ、ねぇ」

「…………んー、なにもう着いた？」

「まだお店の前。お金払った？」

「…明日でいいよ、そんなの」

不機嫌そうにもごもご言うから思わずため息が出る。

「…行きたくないなら断ればいいのに」

「…しょうがないだろ、上司が飲めないのばっかだとつまらねぇとか言うから…」

「はいはい、愚痴は車で聞くから」

「いのおが冷たい…」

「はいはい」

.