となり (ページ24)

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「ええーっ、そうなんだ！」

「じゃあ…けいくん限定ってこと？」

「……さぁ、どうだか」

まあ、だからといって
無駄に触られるのは

「やぶ？」

「…俺もやる」

「なぁんだよ薮ぅ、いいとこだったのに。
なぁ、けいくん？」

また違う。

多分、ゲーム内の陣地取りが上手くいっていたって意味なのは知っている。
きょとんと目を丸くする薄い肩に回った腕をトンと軽く飛ばした。
飲みすぎているのはお互い様。
俺のイライラも一時的なものだと思いたい。

「なに、嫉妬してんの」

「別に、ゲームしたいだけだから」

ほんの少し伊野尾の気配がふわりとしたが、
敢えて無視する。
あーあ、困った。
俺が先に断っておけば良かった。

そしたらこういう事には……

「なぁ薮、終電無くなったから泊まってっていい？」

「は？」

ならなかったのに。

「あれっ、ほんとだぁ。
もうないじゃん」

「いや、りおたん歩いて帰れるじゃん。
俺も帰るからさぁ」

「わたしも帰れるー、でも芹澤くんたち
遠いもんね」

「そおなんだよー、さすがに5駅は無理」

いや帰れ。
俺のイライラも一緒に連れて帰ってくれ。
つまみ出そうと口を開きかけたその時、

「けいくん、ダメ？」

「え、うん…いいけど、布団ないよ？」

やぶは？と視線を送ってくる間も無く、
やったーラッキー！と声を上げながらゴロリと床に寝転がるパーマ頭。
それに乗ずる何人か。

「……あの、やぶ…」

「伊野尾はベッドな？」

「う、うん…」

俺は見回りも兼ねてリビング決定。
もじもじと手を震わせるのを目の端に入れたものの
このままだと自分がなにをするか分からない。
片手じゃおさまらない本数を飲んだ記憶だけしかないし。
なんなら伊野尾の肩からほんの僅かに香るのは
他人の香水。
アルコールのせいか潤んだ目元と甘そうな唇。

「やぶ、は？」

「え？」

「……」

そこから紡がれる煽るような台詞。
できるだけ生まれた不純な気持ちを噛み殺して
「ここで寝るけど」と答えた。
その辺で転がって、ちらちらと伊野尾の様子を伺う瞳の色は餌を見つけた野犬の群れみたいなもんだ。
一緒にのんびり寝てたらなにが起こるか分かったもんじゃない。

「そう…」

「風呂いっといで、疲れたろ」

「わかった…ありがと」

たとえそれが可愛い恋人のおねだりだとしても。

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