となり (ページ22)

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今日はちゃんとスーパーに寄った。
自分にもご飯を作って、片付けて、ちょっとだけ
ちゃんとしよう。
サラダと生姜焼きとお味噌汁。
…冷凍ご飯は変わらないけど。

テキパキと具を切って、水を張って
タレを作って…

「…今日はいいのか」

気づいたら二人分。
多めに材料を買ったせいなのは仕方ないとして、
自分の無自覚さにまた昨日に戻って来てしまった。
ふるふるとまた頭を振る。
ご飯食べたら仕事がある。
そう、大丈夫。
今日は大丈夫。

また手元に意識を戻した。

その時、

「……？」

チャイムが鳴った。

宅急便かな、という気持ちで判子を持って出た。
この部屋は薮名義で借りてるから、
ほとんど俺宛じゃなくて薮に宛てて。
だから荷物に関してはほとんど把握していない。

インターホンに出るより先に扉を開いた。

「ただいま」

「っえ…」

なんで？って言いかけて、すぐに口を噤んだ。
だって、まだ…

「やっぱり泣いてた」

「…っこうた」

「うん、おいで」

パタンと扉が閉まったのと同時に、手を広げられて
顔まで熱くなる。
余裕そうな声とは違って、表情は本当に愛おしいと言わんばかりの優しいそれ。
悔しい、じゃなくてただひたすらに嬉しくて。

「素直」

「……じゃ、いや？」

「全然」

ぎゅうう、と強く抱き締められて
苦しい筈なのにもっと、って抱きしめ返した。
温もりと表情があるだけでこんなに違うんだ。
ふくふくと声を漏らすと肩に頬を寄せた。

あんなに寂しかったのに、
泣きそうだったのに…おかしいな。

「落ち着くわ、ここ」

「…っお、れも」

「…ああ、うん」

「？」

キョトン、と見上げるとカプリと唇を覆われて
またぎゅうと抱き締められた。
すき、って言葉が心の中でふよふよと
浮かんで舞う。
もう一回して欲しくて、
くしゃりと手の中で薮のワイシャツを引っ張った。

「こた…」

「…後で風呂入ろ」

「え、う、うん…っ」

火照った身体は、多分薮のほう。
この時間に帰ろうと頑張って来てくれたに違いない。
嬉しくなって背伸びした。
焼かれるままにもう一回キスをして、

お願いだから今日は…離さないでいて。

end.