となり (ページ19)

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『寂しいか？』

「え…」

『いや、そんな感じしたから』

「…っ宏太は？」

『ん？』

「…あ」

はぐらかしたら、そんなの肯定してるのと一緒。
顔も何もかもまたさっきの熱さが復活する。
弁明しても、薮にはすぐ分かるから。
きゅうと唇を噛み締めた。

『俺は寂しいよ、かなり』

「…っ」

『早く帰って慧のご飯食べたい』

「…こ、た」

『あと、やっぱ…早くキスしたい』

「っえ」

『…引いた？』

「ううん…ぜんぜん」

また火が灯る。
いけないほうの。

息が吐息になりそうで、
これ以上はだめで。

『…慧、聞こえてる？』

「き、こえてる…」

『……』

「…こうた？」

『あのさ…もしかして』

「なに？」

『……してる？』

驚きで思わず、あっと声が出た。
遠くにいるのに、カメラもないのに。
大きめの声でしてないって言えたら良かったのに、
それが出来ないくらい涙が零れて声にならなかった。

だって、

薮より俺の方がずっと寂しがってる事がありありと分かってしまったからだ。

『ごめん、変なこと…』

「して、る…っ」

『え…』

「……さみし、かったんだ、もん…っ」

あまりに稚拙な答えに、薮は黙ってしまった。
切るに切れない状況と、あまりに虚しい姿に俺は
上擦る声を出すだけ。
それでもまだ熱は引かないのが本能の強さ。
早くごめんって言わなきゃ。
震える口を開いたその時、

『電話、そのままでしてみて』

「や、やだ…な、んで」

『……聞きたいから』

「ふぇ…」

薮の声にまたじっとりと濡れる身体。
ふぅ、と聞こえた息遣いに耳が擽られる。

『…キスとか言ったけど、触りたい方が本当は強いっつーか……気持ち、お前と一緒だから』

「…お、おんなのことか、は…？」

『あのな、ここまで来てそういうこと言う？』

「だって…」

今回一緒に出張行った子、本命チョコくれた子だったんだもん。
疑ってるわけじゃないけど、寂しさが不安要素を
無駄に膨らませただけだけど。
俺がまたなにも言わないでグズグズ泣いているのを、薮は

『あーも…だから嫌だったのに……』

「こうた」

『今何言っても泣かせるだけだから、
声…聞かして』

「……っ」

『いい子だから』

甘い甘い宏太の台詞に、またとろりと先から零れて
入口まで流れて足先に力を入れた。
声だけなのに、もうだめそう。

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