となり (ページ17)

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お風呂から上がると、適当にテレビをつけて
ぼぅ、と画面を見つめていたら
あっという間に夜が来た。
お腹が鳴っているかもしれない。

冷ご飯とふりかけとレトルトのお味噌汁。
簡単すぎるけど、薮が居ないなら別に作る必要も無いし。

「……」

ふつふつと沸くお湯を見ながら、
3日前の電話口の声が蘇る。
あの日は残業が決まって、その前に夕飯を食べてしまおうと外へ出た時だった。

『…今すぐ行くの？』

『ああ…うん。行く予定の奴が風邪引いてさ、
どうしてもって言われて』

夕方の喧騒の中で聞くあまり嬉しくない報告。
なんで今日なの。
行く前に会いたい。
お湯のふつふつと同じように湧いた言葉を

『気をつけてね、忘れ物あったら送るから』

『ありがとう。助かる』

『折りたたみも持って行って。
梅雨入りしたって言ってたから』

『分かった、そうする』

いい同居人の皮を被ってかき消した。

「……あ、っち」

お湯が跳ねて思わず出した声が、キッチンで妙に反響して耳まで届く。
薮が居たら、
って。
また考えてる。

「……」

きゅう、とまた潰れる胸。
ベッドに入ったらまた…薮の体温を思い出す。
初日と2日目はちゃんと仕事を残して帰ったのに、
今日は新人くんが手伝ってくれたおかげで全部綺麗に終わってしまったからこのまま布団に入るしかない。

…ごはん、ゆっくり食べよう。

あ、でもそうだ。
あの時答えられなかった夏にしたいことを考えたら、少しだけ軽減されるかも。
薮のことを考えたとしても、楽しくなるかも。
ふと緩んだ口元。
俺にとって薮は、この世界そのものなんだって
思い知らされる。

目を瞑って想像した。
さざ波が鳴る海岸を、ふたりきりでゆっくり歩く。
薮がそっと躊躇う手を引いてくれるのを、
俺は目をぱちくりさせて視線を絡めてまた歩く。
バカンスだし、少しいいホテルに泊まるのもいいかもしれない。
広いベッドの上で水平線を見ながら…

「……」

夜なのが悪い。
ふるりと背筋が震えたのを感じて、
思わずあっ、と声が出た。
ちゃんと…気をつけてたのに。

身体に巡る熱に反して
虚しくて寂しくて涙が出た。

帰ってくるまで我慢しようって思ってた。
でもやっぱり週末は無理みたい。
仕事で連絡が来たら困るから、
スマホだけは手放せない。

ベッドへ向かうにも冷静で、
薮が居たらまた違うのかな
なんてまた思ってしまった。

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