となり (ページ12)

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カップルシートは照れくさいから、
隅の二席を取った。
手を解いてコートを脱いだ薮は、薄っぺらくて僅かに柔軟剤の香りを称えたセーター姿。
『ちょっと背伸びした』って言うお店の為に
いつもよりきちんとした格好をしたみたい。

薮が予約したからお店がどこに有るとかは未だ分からなかったけど、互いに特別な場所になることは聞いていた。

「…やぶ」

「ん？ …ああ」

今度はこっちからきゅっと親指を引き寄せて、
柔らかく手を繋いだ。
薮は変わらずなんでもないけど、俺はまた顔を赤くしてしまう。
いつになったらこれが当たり前になって普通になるのか…自分にも分からない。

暖房のおかげでもうすっかり身体の芯まで暖かい。
そんなタイミングで場内が暗くなって、
華やかな音楽と共に映画が始まった。
驚いて俺が思わず手を強く握ったり、音楽に合わせてぽんぽんと薮の指がリズムを刻んだり。

目と耳だけじゃなく、感触でも伝わってくる。
薮楽しいんだな、って。

「思ったより良かったな…ほらあの」

「花畑のシーン？」

「そうそう、綺麗なのに儚いっつーか」

ヒロイン目掛けて降り注ぐ風と桃色の花びらに目が眩んだ。夢心地にもなるけれど、ああこの夢は今から終わるんだってことを助長する。
綺麗だから余計に、胸に迫るそれだった。
映画の感想を話しながら寒い外へと向かっていく。

ふたりで同じものを見るって、楽しい。

「あ、店までちょっと歩くからマフラー巻いといた方がいいと思う」

「分かった」

柔らかい声に唆されてマフラーを巻いた。

「やぶも、巻いた方が良いんじゃない？」

「え？今日持ってきてないけど……」

「えと…それ」

「これ？ …なに、もしかして」

結局道で封を切る薮。
通りが広いせいか風が大きく吹く度に
枯葉がからからとコンクリートを駆けていく。

濃いグリーンのスヌード。
編み目が可愛くて薮に似合う気がして。

「…めっちゃあったかい」

「…良かった」

ありがと、と言われた気がするけど、
僅かに唇同士がぶつかるのを感じ取れば返事もできない。
反動でまた捕まる左手。
こんな時ばっかり薮がモテて来たことをありありと感じてしまう。
俺はずるいから、薬指の指輪をすりすりと薮の手の中で動かして確かめたりして。

「手、嫌？」

「ううん…嫌じゃない」

相変わらずこういう時はいつも鈍感。
でも好き。
信号待ちで赤になったのを見て薮の耳と同じ色だ、
とかなんとか思った。

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