日々 (ページ3)

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「やぶくん、おはよ」

「…はよ」

なんだ、こっちは忙しいんだ。
営業がモタモタしてるせいであっちもこっちも電話が鳴っててだな…
と文句を口にしようとしたら、
見上げた先の男の笑顔で一瞬で噤んだ。
反応するんじゃなかった。
こういう時の高木は何を言うかわか

「なんかいい事あったでしょ？」

「…はぁ？」

「なんか機嫌良いな～と思って」

どこがだ。
そう返す間もなく、今度は俺の隣のデスクから
ひょっこり同じ企んだような顔で現れたのは

「ほら、例のりょーくん。
きのーお泊まりだったんでしょ？」

同期の光。
腐れ縁。

「ああ！あのかわいい子かぁ！！」

「…なんで知ってんだよ、光てめぇ」

「帰りに見たもん。ぽってりした白パーカー」

「……」

「薮待ってるの？ってはなしかけたらさぁ、
真っ赤になっちゃって。超かわいかったよ」

「へぇ～、いいなぁ。俺も話してみたい」

「高木はだめだよぉ、大人っぽいしかっこいいから
刺激強いもん。ねぇ、やぶ？」

「……コーヒー、暇なら持ってこい」

「はいはい、かしこまいりました～～
いこ、高木」

「え～俺さっき飲んだばっかりなんだけど」

…会社の前で待つな、ってあれほど言ったのに。
所謂エリートと呼ばれているうちの会社の社員は社名のブランドもさる事ながら、どいつもこいつも手が早い。
洒落た髪、服装も自由。
年齢層も若い。

モテた経験が多い男は女に飽きて男に行く、
とはよく言ったもので。
腐れ縁と長髪はその筆頭もいいとこ。
この前なんか俺が連れて行けないような洒落たカフェで、いちごやらが乗ったパフェに引き寄せられて
あっという間に食われるところだった。

無自覚というか、
なにも考えていないというか。
とかく、ため息が出るほど純粋なのだ。

「こうた」

「うん？」

「な、んでもない、へへ」

照れ笑いに隠した本音は未だ聞けずじまい。
首筋に残した赤赤とした跡を撫でて、指まで赤くなるのを見てなにも思わない男が居るというなら
知りたい。
それでも口にできなかったのは、
妙に高くなってしまったプライドと
嫌われたくないという気持ちがこれに覆いかぶさって弱い自分が出るのが怖かったから。

「はい、コーヒー」

「ああ」

「お礼は？」

「…ありがとう」

「うん、それ大事」

「え？」

「相手を思いやる気持ち、口にしないと伝わんないから」

「……あ、そう」

「冷た～、なにその態度。そろそろ会議、早く来て」

「…分かった」

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