日々 (ページ16)

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久々に会ったやぶさんは、
いつもよりずっと声が低くて
俺の声を待つように見つめるものだから

焼き付けたかったはずの姿を、
俺は自ら滲ませてしまう。

「あ、いたかった、よぅ……っ」

寒い川にでも流してしまおうとしてたネクタイピンがぴょんと地面に落ちて、
情けない声を上げて泣く俺をやぶさんはあっさり抱きとめた。
もうそろそろ飽きた？とか
だから別れるって言うんだ、とか
可愛いと噂の女の子のいとこの存在、とか
もっと最初に言うつもりだった言葉も一緒に涙になって落ちていく。

こんなしょうがない気持ち全部、
会いたい気持ちで無かったことになってしまった。

「…悪かった、ろくに返事もできなくて」

「っ、ひっく…っう、ぐ…こーと…汚しちゃう……」

「そうだな」

「こう…」

「風邪ひいても困るから、」

「あ、う…っでも」

「屋根あるとこいて」

雪が街の音を吸ったせいで、
やぶさんの声がずっとずっと近くて。
心の中にまで響いてしまって。

いちびょう

って自分が決めた時間をまた延長してしまう。

「暖房まだ付けたとこで変わらないけど」

「こ、こうた…俺の家でいいよ、ごめんね、ほんと会いたかっただけ…迷惑ばっ……」

車の窓を開けたやぶさんの肩ごしに見えた紙袋に、
頬と続けるつもりの言葉がじゅうと焼けた。

「どっちにしろ、乗るだろ？」

「っ、うん」

目を逸らしたこいびとの睫毛の先まで愛おしくて、
本当にさっきまでのモヤモヤが霧のように消えた。
馬鹿みたいに単純だ。
でも、形に残るプレゼントなんて初めてだったから。

「…遅くなったけど、クリスマスの分」

「嬉しい、ありがと…開けてもいい？」

「どうぞ」

なんなら、飛び上がるくらい嬉しい。

水色のリボンをゆっくり解いて、綺麗な銀色のエンボス加工を指先で撫でた。
深呼吸して、開いたら。

「それ、流行ってるって聞いたから」

ピンキーリングがひとつ。
ゴールドに小さな赤の宝石が埋め込まれた
静かなデザイン。

また落ちそうになる涙をこらえた。

「いいの、おれ、もらっても…っ」

「ああ」

「ほんとに？」

「…困るから、逆に」

「ぎゃく…？」

「貰ってもらわないと」

でも無理、そんなこと言われたら全然むり。
すきすぎてむり。

そうしてミラー越しに静かに泣き始めた俺に、
やぶさんは慌ててタオルを手渡して
そのままお家へ連れてってくれた。

もちろん、やぶさんのお家に。

end.