日々 (ページ15)

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膨れたマフラー(yb×ym) ページ15

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年末
年始

薮さんは今年実家に帰らないらしい。
理由は簡単、
仕事が忙しくてどうしても帰れないから。

「…だからって、」

俺と過ごしたいわけじゃないでしょ。
口に出そうとした声を引っ込めて
かじかむ指を手袋に隠してぎゅうと握る。
もちろん約束なんてしてない。
大学が終わってからずっと震えながら待っている。
無駄に健気な自分を恨むみたいに雪まで降ってきた。
…こんな事なら家で待ってれば、とも言われそうだけど、年始にいとこがこっちまで来る、なんて聞かされてたから迷惑極まりない訪問はしたくなかった。

だけど

だからこそ

いちびょうだけ、顔見れたら帰る。

そう決めてここへ来たらいつものカフェは閉まってるし、高木さんの話によるとやぶさんは残業、
おまけに聞きたくない話まで聞いてしまって
もう帰るに帰れなくなってしまった。

「…やっぱ、バイト入ればよかった」

クリスマスも何もなし。
プレゼントも用意してたけど、渡すに渡せなくなって
クローゼットに押し込んだ。
泣いたけど、大人の人と付き合ってるんだから
恨み言を言うのは我慢した。

やぶさんと出会ってからずっと
12月は嫌いだ。

だって、こいびとかどうかを試すようなイベントが所狭しと並んでいるから。

「…涼介？」

「ぁ……」

「なにしてんの、お前」

しゅうしゅうと音を立てて心臓が溶けた。
ほら、やめとけば良かったじゃん。
って天使の声が聞こえる。

やぶさんは思った通り困ったように眉間にシワを寄せて近寄ってきた。
暖かそうな高そうなブランドものの黒のコート、
見たことないなって思ってたら

「ご、めんなさい…」

「いや、別に…俺謝って欲しいわけじゃないんだけど」

「でも、前来るなって言われたし…えと、だから」

そのいとこからのクリスマスプレゼントで。

「ああ…そうか」

「うん」

俺はそんな高価なもの、渡せないし。
渡すつもりだったプレゼントもそうじゃないし。

「…車取ってくる」

「っえ、だめ」

「え？」

「かお、見たかっただけだし。
それに、いとこさんに悪いし…それに」

「…それに？」

「んえ…っと、んと……」

ぐるぐる巻きにしたマフラーが少しだけ緩んだ。
やぶさんの真っ赤な指先がいつの間にか薄ら積もった雪を払ってくちゃくちゃになった俺と目を合わせてしまう。

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