日々 (ページ11)

今日:9 hit、昨日:12 hit、合計:22,895 hit

ジャム香る(yb×ym) ページ11

年末もお正月も薮さんには会えなかった。
いや、会えないようにわざとバイトをめいいっぱい押し込んだ。
なんとなく、なんとなく避けてしまうのだ。

しあわせに過ごせた1年の総決算を試されるみたいで、俺にとってはとても……

「いらっしゃいま…」

「やっほー、りょうくん」

「こんにちは、光さん…今日もありがとうございます」

「いやぁ、ここのコーヒー美味しいからさ。
会社からも近いし？」

「あっ…」

にこっと笑った光さんには、何もかもバレてるみたいでその言葉でじわりと頬と耳が熱くなる。

自分の大学から通うには遠いバイト先。
窓も大きくて、外には整えられた季節の花。
オフィス街の真ん中にあるにも関わらず、このカフェはとても鮮やかな空間だ。
コーヒーや名物のサンドウィッチを目当てにお洒落をした女の子達がたくさん来るのもそう見える理由なんだと思う。

「で、年末年始は？」

「へっ」

「薮とラブラブできたの？」

「あっ…いや……バイトで忙しくて」

窓際のカウンター席。
細い瓶に揺れるマーガレットを指で揺らし、
光さんは「いつもの」と口にする。
含み笑いを見て、またなにか教えて貰えるんだって
少し期待してしまう。

ブラックコーヒーと、たまごサンドをメモしてキッチンへ。
光さんは、度々会社での宏太のことを教えてくれる。
ただ面白がってるだけかもしれないけど、俺にとっては大事な情報源。
宏太はあんまり自分のことは口にしないから。

「りょうくん」

「あ、はい…なんでしょう」

「このクッキー、会社に持っていきたいんだけど…3種類を10個ずつ、30個とか注文できる？」

「はい、勿論です！オーナー…すごく喜ぶと思います」

「そ、ありがと」

包装紙の希望を聞こうと少ししゃがんだら、
ふにっと頬を優しくつままれた。

「ふえ、っ」

「…別に難しく考えなくていいんだよ、あんなのの為にさ？」

「えっ、えと…？」

「やぶ、めちゃくちゃ寂しそうだったなーって話」

ま、会社の人間にはバレてなさそうだったけど。
くすくすと肩を揺らして笑う光さん。

「でも、薮さん…実家帰るとか、年末ギリギリまで仕事だったし」

「うーん、まあそうかもだけど」

「…あんまり、重荷に思って欲しくなくて」

「重荷？」

「はい、薮さんには…自由に、好きなことして欲しいんです。俺のこととか、気にせずに」

ふぅん、と薄い目になる光さん。
なんだか全部見透かされてる気がするから、この時は目を逸らしている。

.