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「いらっしゃい、裕翔くん」
透明度の高い茶色の瞳に俺が映る。
今日は白のニットに裾の広がった灰色のパンツ。
中性的な格好が良く似合う。
今日は約束の水曜日。
週の中だるみ時なのに、
俺は心が僅かに弾んでいた。
「外、寒いんだね」
「はい、最近ずっと肌寒くて…すっかり秋です」
「そっか」
コートを折りたたむとはい、とハンガーを手渡される。
決め細やかな気遣いに甘えられる心地よさ。
最近購入したばかりの薄手のコートだったから。
「それで…裕翔くん」
「はい、苺のミルフィーユです」
「やっぱり…!」
いつもよりキラキラしてると思った。
俺が差し出すより早くケーキの入った紙袋を受け取るとパタパタとリビングへ行ってしまう。
尻尾が見える、
なんて言ったらさすがに怒られちゃうかな。
ハンガーにコートを掛けて玄関に吊るして後を追いかける。
「俺いちご大好き」
「そうなんですね、よかったです。
甘い物、あんまり食べないんでよく分からなくて」
「そっか…あっ、果物には紅茶かな。
ちょっと待っててね」
「あの、山田さん」
「なに?」
くりん、と体を反転させてこっちを向いてくれる。
いちいち小動物みたいにかわいい。
「えと……サンドイッチ、美味しかったです」
「ほんと? 良かった」
聞きたかった、本当は。
『なにかありましたか?』って。
電話口の声じゃ分からないことを知りたかった。
「お待たせしました、デザインどうだった?」
「社長さん、凄く気に入ってくれました。
我社にぴったりのコンセプトだと仰っていました」
「そっか…さすが裕翔くん」
「へ?」
「大ちゃんが信頼してるだけあるな、って」
「ああ…」
報告をしてひと口すすれば鼻腔をくすぐる花の香り。
コーヒーだけじゃなく、紅茶を淹れるのもこの人はとても上手いらしい。
山田さんはコピー機から1枚印刷済みの紙を取り出すと、俺の前に置いた。
そこには色のついたロゴマーク。
もう既に完成していたようだ。
「色味はね、元々を遡れば呉服問屋だったって聞いたから日本人に馴染み深い藍色がいいかと思ってこの色にしてみた」
「しっくりきます、落ち着くというか…」
「パッケージにも反映してみたんだけど、
結構良くてさ」
「わ……いいですね、すごく」
華やかなパッケージデザインの隅に、この藍色はとてもぴったりで。
彼の手腕を改めて感じる。
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らら(プロフ) - 2番目の恋人、すごく大好きで、繰り返し何度も読んでいます。今回、その後の話が読めて嬉しいです。恋人になってから時間がたっても、敬語で話す裕翔くんが可愛いです。次回作も楽しみにしてます。 (2018年5月15日 13時) (レス) id: b61be20377 (このIDを非表示/違反報告)
あわび(プロフ) - ゆとやまは正直いままであまり興味がなくて、スピンオフのやぶいのから読ませていただいたのですが良すぎて本編も一気読みしてしまいました。結果ゆとやまにハマりそうです、笑。しめじさんの心の描写が大好きです。素敵な作品をありがとうございます。 (2017年11月2日 10時) (レス) id: fe63f96f9f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - こんばんわ。いつも楽しく拝読させていただいております。ゆとやま大好きなので、このお話大好きです!中島くんと山田くんのその後のあれこれ、続きを楽しみにしています。 (2017年10月28日 19時) (レス) id: c8480f472b (このIDを非表示/違反報告)
c(プロフ) - はじめまして。とても良かったです。一気に引き込まれて最後まで読ませて頂きました。ずうずうしく申し訳ございません。その後の2人が読みたいです。ざっくりで申し訳ございません。次回作も楽しみにしております。 (2017年10月23日 23時) (レス) id: 3234dce174 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しめじ | 作成日時:2017年10月20日 13時