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そうして朝になれば、彼の影形は何処にもない。

赤く点々と残る余韻に胸がぎゅうと痛む。
キッチンに転がる人参は桜の形になる前の丸いまま

つみれはラップがかかったままボウルの中にいた。


「…冬で良かった」


キッチンはどこまでも冷たくて、もこもこのスリッパでも足先は固まっている。
冷蔵庫に全てを戻して、包丁とまな板を洗い場に
突っ込んだ。
腰のだるさでこのまま立ち続けるのも疲れてしまう。

もう1度ベッドで横になろう、と真っ直ぐ寝室に戻る。
キチンと納めたはずの宏太の下着や洋服が空っぽになっていた。

最近は洗濯物さえ預けてくれない。
それでも、向こうには衣服は揃っていないだろうからそれを考え揃えてクローゼットにおさめる事が
止められない。


「………おも」


全身が、気持ちが。
鉄の塊みたいに、海の底まで落ちていく。
瞼を閉じて朝日から逃れた。
そうして自分で暗闇を作り出して…寝息たゆたう底までたどり着いた時だった。


「……はい、もしもし」

『寝てました?』

「裕翔くん、どうしたの?」

『手ぬぐいのOK頂きました。デザインも好評だったので、このまま進めさせて頂きますね』

「報告ありがとう」

『あと…』


ピンポーン


『開けてくれますか?』


俺は、しあわせだった。

こうして残される朝が来るなんて、想像さえして
無かった。
裕翔くんが言う純粋な人間で居たかった。


「どうぞ」


この余韻をひとりで噛み締めるくらいなら、
存分に上書きして無かったみたいに消してほしい。
清廉潔白な白鳥のような君の羽根に包まれたい。

そう思う小狡い神経しか持ち合わせていないのに。


「失礼します」

「こんにちは、裕翔くん」


コートを、マフラーを、手袋を。
手際よく玄関先のハンガーに引っ掛けると冷たい身体を俺に擦り付けてため息を吐いた。


「……来た?」

「…誰が?」

「……山田さんの良い人」


うなじにあるキスマークを見つけたのだろう。
どこかしこにもあると言えば、どんな顔になるか。
いつも冷静にコトを進めるこの美しい人が、
動揺する姿を見てみたい。


「来たよ、きのう」

「…なのに俺入れたの?」

「寒いのに来てくれるから」


腰に腕を回して身を任せた。
裕翔くんの冷たい身体が心地いい。

いつもならそんなこと思わないのに。


「……あ」

「いっぱい、付けられちゃった」



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失意の熱→←.



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らら(プロフ) - 2番目の恋人、すごく大好きで、繰り返し何度も読んでいます。今回、その後の話が読めて嬉しいです。恋人になってから時間がたっても、敬語で話す裕翔くんが可愛いです。次回作も楽しみにしてます。 (2018年5月15日 13時) (レス) id: b61be20377 (このIDを非表示/違反報告)
あわび(プロフ) - ゆとやまは正直いままであまり興味がなくて、スピンオフのやぶいのから読ませていただいたのですが良すぎて本編も一気読みしてしまいました。結果ゆとやまにハマりそうです、笑。しめじさんの心の描写が大好きです。素敵な作品をありがとうございます。 (2017年11月2日 10時) (レス) id: fe63f96f9f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - こんばんわ。いつも楽しく拝読させていただいております。ゆとやま大好きなので、このお話大好きです!中島くんと山田くんのその後のあれこれ、続きを楽しみにしています。 (2017年10月28日 19時) (レス) id: c8480f472b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - はじめまして。とても良かったです。一気に引き込まれて最後まで読ませて頂きました。ずうずうしく申し訳ございません。その後の2人が読みたいです。ざっくりで申し訳ございません。次回作も楽しみにしております。 (2017年10月23日 23時) (レス) id: 3234dce174 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しめじ | 作成日時:2017年10月20日 13時

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