二番目の恋人

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いや、ちかい。

いいにおい。

……落ち着け、俺。


「あの、今回のプロジェクトのお話をっ、
させて頂きます」

「あ、はい。お願いします」


ストン、と座り直すとロールケーキをぱくりと1口食べた。そうして彼はふわふわと幸せそうに笑う。

その瞬間、本当にこの人が？
なんて思ったことを撤回しよう。

コピー用紙と鉛筆をひとつずつ。
そこからスルスルと生まれていく世界の広さに酷く驚いた。
説明をしながら彼の動く手の速さに
目が自然と追ってしまう。


「……以上です。
なにかご質問等ございますか？」

「そうだなぁ……じゃあ社長さんの趣味は？」

「へ…えっと…ゴルフ……ですかね？」

「好きな食べ物とか、嫌いな季節とかは？」

「え、えっと…それとこれって…」

「関係ないけど、個人的興味」

「調べておきます…？」


紙の上のデザイン画の時点で、素人目からすればそれが完成のように感じてしまう。
要望も含ませて、山田涼介らしい点と線の広がる不思議なイメージだ。


「お願いします」


くりん、とした目と目が合ってその紙をパソコンの前にある壁に貼り付けた。
大元になるのだろうか。
ぼう、とその様子を見ていると


「明日にはできるから、それまでに教えてね」

「ええっ、さっきどうでもいいって…」


俺も今から適当に放り出してきた苦手な事務作業があるっていうのに…
そんな不満が顔に出ていたのか、彼はふわりと
笑って「お願いします」と言う。

ああ、そうか。

山田さんの笑顔は自分の意思を通す為の常套手段。
圧力のかけ方ってこういう方法もあるのか…


「わかりました。確認の為に電話をするつもりなのでアポ取って行かせて頂きます」

「ありがと」


タネに気づくとその笑顔にも慣れてきた。


「裕翔くん、美味しかったです。ごちそうさま。」

「は、はい」


…近距離だと意味無いけどね。


「またご連絡します」

「はい！……あっ」

「？」

「これ、持って行って。
ここのサンドイッチ美味しいから」


お昼食べてないでしょう？と手渡される紙の包み。
カラフルな野菜と鶏肉が挟まったこれまた大きな
サンドイッチが入っていた。


「ありがとうございます、頂きます」

「裕翔くん」

「はい」

「次、いつ来てくれる？」

「へ……あ、えっと…今度の水曜日なら来られそうなんですけどご予定御座いますか？」


危ない。


「大丈夫、じゃあ水曜日にね」


今のは…危ない。


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