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レインコートを着直せない程の失恋だった。
たった一ヶ月くらいの付き合い、しかも直接あったのは3回。さらに言うと仕事上でのそれなのに。
話をはぐらかされたばかりか、明日会わなければならない事実に脳内がグラグラとあらぬ方向に揺れて
どうにも言う事を聞きそうにない。
このまま帰ってしまおうか、なんて考えていると
有岡先輩からの着信が来た。
タイミングが悪い…いや、良いのかな。
「はい、中島です」
『裕翔、大丈夫か?』
「はい、レインコートのお陰である程度」
『ああでも今さ、大雨警報でさ、走らせるのも危険なくらい後数分でその領域に入るって、ニュースやってて…』
車内にいるのに、先輩の声が朧気になってしまう。
その数分後の暴風域に入ったのだろう。
叩きつけるように雨が窓を打っていく。
「はじまったみたいです、その大雨」
『まじか…暫く続くみたいなんだよ、だからさ』
山田にメール打っといたから、部屋入れてもらえ。
「は……」
『分かったって、今返信きたから。
止んだら車返して帰っていいってさ、部長命令』
「でも、せんぱい、俺……」
『じゃ、また明日な』
俺のせいなのか、雨のせいなのか。
彼の部屋を訪れることを許される雰囲気なんて微塵もないのに。
切れて俺の手の中で唸る電話の音が嫌に大きく聞こえる。
それでも身体は動かない。
告白なんて聞こえなかったのだろうか。
そんなにあっさり、不埒な新人を引き入れられる程のお人好しなのだろうか。
そんなに頭の悪い人には見えなかったのに。
「……」
『裕翔くんへ。
大ちゃんから聞きました。
雨が落ち着くまでどうぞ居てください。
ここは海の近い場所です。
何が飛んでくるか分かりません。
でも、
何も聞かないで下さい。
山田』
メールで返すあたり、まだ声が震えているのだろう。
返す前に車を出た。
身体を吹き付ける雨はあっという間に身体を濡らし
景色までを真っ白にして前さえ見えない。
「裕翔くん…!」
「傘、さしても仕方ないかと思って」
「それでも、ささなきゃ。
頭に直接なにか飛んできたら危ないでしょ?」
手渡されたバスタオルの白でまた、
見えなくなった。
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らら(プロフ) - 2番目の恋人、すごく大好きで、繰り返し何度も読んでいます。今回、その後の話が読めて嬉しいです。恋人になってから時間がたっても、敬語で話す裕翔くんが可愛いです。次回作も楽しみにしてます。 (2018年5月15日 13時) (レス) id: b61be20377 (このIDを非表示/違反報告)
あわび(プロフ) - ゆとやまは正直いままであまり興味がなくて、スピンオフのやぶいのから読ませていただいたのですが良すぎて本編も一気読みしてしまいました。結果ゆとやまにハマりそうです、笑。しめじさんの心の描写が大好きです。素敵な作品をありがとうございます。 (2017年11月2日 10時) (レス) id: fe63f96f9f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - こんばんわ。いつも楽しく拝読させていただいております。ゆとやま大好きなので、このお話大好きです!中島くんと山田くんのその後のあれこれ、続きを楽しみにしています。 (2017年10月28日 19時) (レス) id: c8480f472b (このIDを非表示/違反報告)
c(プロフ) - はじめまして。とても良かったです。一気に引き込まれて最後まで読ませて頂きました。ずうずうしく申し訳ございません。その後の2人が読みたいです。ざっくりで申し訳ございません。次回作も楽しみにしております。 (2017年10月23日 23時) (レス) id: 3234dce174 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しめじ | 作成日時:2017年10月20日 13時