深澤とは名乗らない！-6-

左手の薬指は、空白 ページ39

(深澤夫妻の指輪について)

(当時のお話はスピンオフで投稿予定)




＿＿＿…




男性ながら、まるで女性のようにしなやかで細い指をもつ辰哉と、自分では「昔から実年齢より高い」と言う主婦のような指をもつA。


夫婦になって20年以上経つ二人だが、彼らの左手の薬指に、約束を誓った結婚指輪がはまることは滅多にない。



辰哉はアイドルであるため。ファンの夢を壊さないよう、配慮の上で普段は指輪をはめない。

一方Aは職業柄、時折調理に従事するからという理由でこちらも普段指輪をはめていない。




ほとんどの時間、二人の左手の薬指は空白なのだ。




ただ、二人だけの特別はあった。ピアスとネックレスだ。


エンゲージリングが辰哉からAへ渡された際、とある細工が施されていた。

二人のエンゲージリングは、厳密に言えば指輪(リング)ではない。

先程挙げた理由もあり、指輪をお互いにはめることがない。
そこで辰哉はフープピアス、Aはネックレスになるよう、エンゲージリングをオリジナルにカスタマイズしていた。


その証拠に、お互いのリングの内側にはお互いのイニシャルと記念日が刻印され、そして小さな宝石が埋め込まれているとか。




「これならいわゆる "匂わせ" とかでもないでしょ笑」




Aは、自慢げに笑った辰哉と笑い合った。

20年以上経った今も、辰哉は耳に、Aは胸元に、形を変えたエンゲージリングを身につける。





だがやはり、彼らも一組の夫婦。




「＿＿＿A〜、そろそろ行くよ〜笑」


「今行く！…あっ、待ってつけてない。」


「えー、俺もうバッチリつけて準備万端なんですけどー笑」


「ごめんごめん、普段つける習慣ないから笑」


「いや俺もだわ笑」




ごく稀にある、夫婦二人だけのお出かけ。

その時だけは、二人の左手の薬指に指輪が現れる。




「…やっぱいつ見ても手しわくちゃ笑」


「そう？仕事してる頑張り屋さんな手だと思うけどな。」


「手タレ並の人に言われてもな〜笑」


「なぁんでよ笑
俺は好きだよ、Aの手。」


「本当もの好き。もっと、すらっとした綺麗で女性らしい手なんてたくさんあるのに笑」






「だって、ソレがそこに似合うのAしかいないもん。」






例えその場所に指輪がなくとも、この二人の永遠の誓いが切れることはない。



そして再び、二人の薬指は空白に戻っていく。

指輪はまた、呼ばれる日を静かに待って＿＿＿。





Fin

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