一つの再び ページ32
何故これを選んだのかさっぱりわからない。
例えば可愛らしいピンク色の花火だとか、儚げに揺れる線香花火だとか、
このシチュエーションに合う選択肢は幾らでも在ったはずなのに、私達は今、ニョロニョロと伸びる黒い物体をただ見つめている。
篤「結構伸びんじゃん、こいつ。」
「うん。」
篤「この頑張って伸びてく感じがめちゃくちゃ愛くるしくね?いけーって応援したくなるってゆーかさ。」
「そう?」
篤「あー、いけっ。あともうちょい。」
もっと伸びろと声援を送っていたかと思えば、伸びきったそれを容赦無く踏みつけた彼。
”この感触がたまんないんだよね。”と笑うその姿は、正に悪魔そのものだ。
篤「ね、踏んでみ?」
「嫌。」
篤「いや、気持ちいいんだって。」
「嫌だってば。」
”こいつも踏まれんのが本望なの!”と、強引に私の背中を押した彼。
先週おろしたばかりの真っ白なサンダルは、ケラケラと笑う悪魔により見事に黒く汚された。
少し離れた場所で楽しんでいた家族連れの姿はいつの間にかもうなくなっていた。私達しか居ない河川敷は一層静かで、暗闇の中ろうそくの炎だけがゆらゆらと揺れる。
なんとなく視線を合わせ、なんとなく無口になる私と彼。
でもその隙間を虫たちの鳴き声が埋めてくれるから、不思議と気まずさはあまりない。
彼と肩を並べ花火を眺めるのはこれが初めてだ。それがニョロニョロと伸びるヘビ花火であるのは、少し複雑だけれど。
ようやく見れたそれに高揚している自分と、相変わらず少しの背徳感に苛まれている自分。
”次これね。”と躊躇いがちに数本の線香花火を持ってきた彼も今、同じ感情の狭間に揺れていたりするのだろうか。
篤「何気にさ、初めてじゃね?委員長と花火見んの。」
ろうそくの前にしゃがみこむ彼。
”何気に”なんて言葉が少し切なく感じるのは、きっと何も気にしていないふりをして過ごした四年間が互いの中に存在するから。
「そういえば、そうかもね。」
同時につけた線香花火が、パチパチと音を鳴らした。
篤「じゃ、初めて記念に勝負。先に落ちた方が負けってことで。」
少しの距離を開けてしゃがむ私達の隙間を、火薬の匂いを乗せた煙がゆっくり通り抜けた。
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laiz(プロフ) - 娘×2さん» 娘×2さん、はじめまして。初めから読んで下さりありがとうございます!確かに、まだ誰も「好き」とは言葉にしていませんね^ ^いつ頃その言葉が出てくることでしょう…そして初めに言うのは誰かな(^-^)続編「月白(つきしろ)」を作成致しました。是非覗きにいらして下さい (2014年10月24日 20時) (レス) id: 2a8e7ae77e (このIDを非表示/違反報告)
娘×2(プロフ) - 初めまして(^-^)『碧』から読み始めてやっと追い付きました!!まだ誰も『好き』と伝えてないのにキュンキュンしまくってます。続きが楽しみです♪待ってます(*^^*) (2014年10月23日 20時) (携帯から) (レス) id: d30826829b (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - みいさん» みいさん、お返事が遅くなってしまい申し訳ありません>_<おっしゃる通り、その内亀に抜かれますね(^ ^)笑”現在編なんてサクッと好きって言っちゃえばいいのにと思いつつ、このもどかしい距離を書くのが大好きなんです!笑”これからも変わらずお付き合い下さいね♪ (2014年10月23日 19時) (レス) id: 2a8e7ae77e (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ひろさん» ひろさん、お返事が遅くなってしまい申し訳ありません>_<私もスタジアムのシーンを書きながらあの味を思い出してヨダレが出てきました。笑”美味しいんですよね!鹿島にいた頃は特別内田さんのファンではなかったのですが、試合は何度か見に行きました。懐かしいな〜 (2014年10月23日 19時) (レス) id: 2a8e7ae77e (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - とまとさん» でもそれ以上の喜びややり甲斐を皆様が下さるから、こうして続けられているのだと思います(*^_^*)「課金制でも読みたい」最高の褒め言葉に心が震えています。(本気です笑)皆様ご期待を裏切らないよう、執筆頑張るぞー!負けませんっo(`ω´ )o (2014年10月23日 19時) (レス) id: 2a8e7ae77e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2014年8月30日 20時