茜(あかね)

あの夏の日 ページ15

それは突然だった。






「お待たせしました。濃厚ブラックとアイスココアです。ごゆっくりどうぞ。」






長く憂鬱だった梅雨が明け、
青空がひときわ爽快に感じられる7月中旬、

カランカランと開いたドアから、生温い風と共に夏の香りが入ってくる。






「いらっしゃいま、せ…」






振り向けばそこには、
良く知った二人の男が立っていた。






雄「委員長、久しぶり。」






爽やかな笑みを浮かべるその男の後ろには、対照的な顔の彼。

”あぢー”とTシャツの襟をパタパタとさせながら、”ども。”と小さく頭を下げる。






「なんで、」






不意にやって来た彼らの姿に、つい数時間前に届いたメールを思い出した。



＜今日バイト？＞
＜そう。＞
＜何時まで？＞
＜十八時。＞
＜へー。しっかり働きなさい。＞






篤「あ、奥空いてんじゃん。店員さん、あそこ良い？」






私の返事を聞く前に、一番奥のソファ席へさっさと進んでいく彼。

ドカッと腰を下ろしたその場所は、あの日彼と座ったお気に入りの席だった。






「それより、何で此処に、」

雄「ここら辺適当にドライブしててさ、そこのカフェで休憩するかってなったんだけど、ここよりいい店知ってるってうっちーが教えてくれたの。」






私たちの会話を気にすることもなく、当の本人はメニュー表を眺めている。

”注文いっすか？”とわざとらしく他人行儀な口調で、悪戯に笑った。






篤「えっとねー、いつもの。」






彼が此処に来るのはまだ二度目。

”いつもの。”というのは、この前私が淹れたブレンドコーヒーのことだろう。






「…この前のは中濃だけど、それでいい？」

篤「ん。てゆーかなに、ここの店員さんってタメ口なわけ？」

「………」






横目で睨めば、ニヤリと片方の口角だけを上げ、






「ブレンドコーヒーの中濃でよろしいでしょうか？」

篤「そうそう、それね。あ、もちろんマスターが淹れたやつで。」

「…かしこまりました。」






私もわざとらしく他人行儀にしてみせれば、”じゃあ俺もそれ一つ。”と小関くんがくすくすと笑う。






篤「あ、あとオムライスね。ケチャップ多めで。」






突然来た客のわがまま注文に溜息を零しながらも、胸の奥ではだんだんと鼓動が早くなってゆく。

三ヶ月ぶりに会えた彼の姿に、私は確かに高揚していた。

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