茜(あかね)

隠す高揚 ページ11

一学期のメインイベントが終われば、残る数週間はあっという間に過ぎていった。

祭りムードから一転、期末試験で張りつめていた校内の空気も、今日は明日から始まる夏休みのせいか浮かれている。






『ちょっと男子、ふざけてないでちゃんとやってよ！』






大掃除にありがちな台詞が飛ぶ教室に立ち込める異様な臭い。

学期末の度に毎度思うが、ワックス特有のこの臭いは何度経験してみても慣れない。






篤「まじ無理、」






苦々しい顔で鼻をつまんでいる彼。

”くせー”なんて廊下に避難していくクラスメイトたちが多い中、片手ではちゃんとモップがけをしているその姿に小さく笑った。






繭「Aー、昼ご飯食べて帰ろ。」

「うん。」






夏休みと言っても、これから始まる一ヶ月を憂鬱に感じてしまうのは私たちが受験生であるからだろうか。

舞踊科志望の私には、明日から目眩がしてしまいそうな程のレッスン漬けの日々が待っている。






雄「あ、俺らも行くー」






それとも、毎日の様に顔を合わせていた彼らと会えない日が続くからだろうか。






雄「何食う？」

篤「ラーメン。」

「私、ラーメン嫌いなんだけど。」

篤「はー！？」

繭「てかこんなくそ暑い中わざわざラーメン食べたくないわ。」

篤「まじ何もわかってねー。夏に汗だらだらかきながらラーメン食う。これ鉄板でしょ。」






その理由は、曖昧だー









今日は珍しく部活が休みなのだと言う彼らと向かったのは、静岡駅を降りてすぐの場所に在るファミリーレストランだった。

どこの学校も終業式なのだろう。
店内は制服姿の高校生たちで賑わっている。






雄「なんかサイドメニュー頼んでみんなで分けようよ。」

繭「やっぱ山盛りポテトでしょ。鉄板は。」

篤「いや唐揚げだから。」

繭「は？んなもん一人で唐揚げ定食頼めし。」






それぞれ思い思いの料理と山盛りポテトを注文し、ドリンクバーを四つ頼む。






繭「コーラ。」

篤「俺も。」

繭「パクんな。」

篤「あのね、悪いけど俺が言ってんのはゼロコーラの方だから。」






勿論、どうでもいい言い合いをしている変わり者たちは当然のように動こうとしない。






雄「はいはい、少々お待ちを。」






私とほぼ同時に立ち上がった小関くんも、きっとこんな事には慣れているのだろう。

”あの二人はドリンクバーの意味わかってないよね。”と愚痴を零しながら、溜息混じりに二人で笑った。

2→←4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す