探偵社の窓から突っ込んだら色々狙われてます

第八十話 潰し合い ページ31

，


「……ケホッ」


咳が漏れる。少しばかり此処最近の無理が祟ったか。それとも冷や汗の染みた服のまま動いていた所為なのか

それともーーーーーこの傷(・)の所為かな

腕に少し深く刻まれた切り傷。ドストエフスキーの話に呑まれ、死角から来た何かを避けきれなかった
原作では死人も出ていた筈。その内の一人になりました、なんて洒落にもならない


荒い息を保ちながら路地の薄汚れた壁に肩を押し付けるようにしてズリズリと擦らせる
ぼやけた視界に熱で浮かされた頭。覚束ない足に鞭を打って、引きずるようにして進む

戸籍がないから病院にも行けないし探偵社やポートマフィアは今、何をしてーーー


「……ぁ」


流石に、限界がーーー

一気にブレた視界は足が力を抜いて立っていられなくなった証拠。ドサリとその場に倒れこんだ。
咳をする力も無く、息をする度に吐息が熱くて喉が痛む。


「……ヒー、ロ……なんて……」


やっぱり、現れない。

冷たい路地の地面が気持ち善い。このまま死ぬか
金が、入らなくなるのは、駄目……なのに……

目頭が熱くなり、体内の色んな熱と混じり合い訳が判らなくなる。浅くなる呼吸が悔しくて、最後の力で手を伸ばす

薄汚れた手に、紅い血が纏わり付いている幻覚さえ見えた。自嘲的な笑みが漏れる


「……ま、……」


たかがウイルスに、情けないなぁ

第八十一話→←第七十九話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す