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「小田が……機械見てんだよな？居るよな？」

「……様子見てきます」

私は何度も滑って転びそうになりながら濡れた階段を昇った。

雨のように滴り落ちる水が、レインコートのフードを伝って頬を濡らす。

「小田さん」

朝見たときより水かさが上がった地下1階で、小田さんが抱えるようにして機械の傍に立っていた。

「ねぇ……下に水漏れしてる」

小田さんは、泣きそうな表情で私を見た。

「山田さん……あの……」

「何を見てたの」

「え……？」

「しっかり見ててって言ったよね。機械を見ないで、何を見てたの？何を……考えてた？」

6月の蒸し暑い日。

更に湿度が高いこの場所で、私の髪から汗か水か分からない雫が垂れていく。

「小田さん。“こんなことするために”じゃないんだよ。こういうことが大事なの」

相手の感情に乗ってはいけない───

「私たちの仕事、ドラマとか映画みたいにキラキラしてカッコいい世界だと思ってた？こんな風に現場で汗かく仕事だとは思わなかった？」

相手が苛立ってても───

「この仕事はね、お洒落で見た目の良い大きな箱を作ってるんじゃないんだよ。人の命を守るものを作ってるの。誰かの体に直接触れなくても、私たちは人の命に関わる仕事してるの！」

大事なものを守りたいなら────

「そのとき建物の何処に居るかで命が左右されるような物を作っちゃいけないんだよ！私たちの仕事はね、ちょっとした油断で誰かの命を奪うような仕事してるの！その自覚ある！？」

隆二さんを守りたいなら────

「私にどんな感情持ってても勝手だけど、ここは仕事場だから！」

結局私は、嵐士が言ったことを１つも守れませんでした。

「もう、上に行って良いよ……あとは私がやるから」

隆二さんに迷惑をかけることが怖かったのに、

私は自分の気持ちを抑えることが出来ませんでした。

隆二さんのことは守りたい。

でも、それを理由に仕事を投げ出すことも出来ませんでした。

私が叱咤したことで、小田さんはこのあとどう出るのでしょう。

嘘つきな私に、どう出るのでしょう────。