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「お疲れさまです」









現場に入ると、部長が私に向かって軽く手を挙げた。









「取り合えず地下行こ」









「はい」









レインコートを持ってこいと言われた意味はすぐに分かった。









水が溜まっているのは地下1階。









到着した地下2階の天井からは、その水が雨漏りとは呼べない勢いで滴り落ちている。









「何で地下1階から……」









このビルは地下3階まである。









一番下の階に水が溜まるなら地下水が染み出したのかと思うけれど、何故地下1階から……。









設計のミス、設備のミス、構造のミス、施工のミス────。









嫌なことばかりが頭に浮かぶ。









「どっから出てるんだろ……」









思わず天井を見上げた私の頬に、水が容赦なく降り注ぐ。









「地上階にみんな集まってるから、山田も行って」









「はい」









「あ!その前に地下1階で小田に指示して」









「小田さん?」









「ポンプの機械、扱い方教えてやってくれる?」









この事態に小田さんが居て当たり前なのに、私は少し動揺した。









「小田さん」









足首まで水が溜まっている地下1階で、小田さんは私の声にゆっくり振り向いた。









「お疲れさま。機械の使い方なんだけど、ここに目盛りがあるでしょ?これがね───」









無駄口は叩かず、必要なことだけを。









相手の感情に乗ってはいけない。









「目盛りがここまで来たらこのボタン押してくれる?機械自体が濡れちゃうと汲み出せなくなって大変だから。しっかり見ててね」









何か分からないことある?と小田さんの方に向き直る。









「……ないなら、私行くね。ちゃんと見ててね。宜しくお願いします」









「何で私がこんなことしなきゃいけないんですか」









「……は?」









「私、こういうことするために会社入ったんじゃないんですけど」









その言葉が、私を挑発するための物なのか彼女の本心なのか、









判断するのは、今の私には難しすぎた。









「……仕事のことは今度部長も交えて話そう」









上に行こうと階段の方を向いた私の背中に、









「山田さんって、嘘つきですよね」









小田さんが、言葉を刺した。

ずぶ濡れの恋模様。→←3



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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年4月17日 19時

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