2 ページ41
・
「仕事で抱えてる爆弾って何」
純奈と健太郎くんと別れたあと、二人きりの帰り道で嵐士がそう呟いた。
「……嵐士は、仕事で自分の弱味握られたことある?」
「ない。俺、弱味ねぇもん」
「あーそーですか」
「でも、Aと付き合ってる時はAが弱味だった」
「え?」
嵐士は遠くの通りを見るような目をして、少し笑う。
「映画みたいにさぁ、Aが人質に取られちゃって“会社の権利全部渡せ”とか言われたら……俺渡してたよ」
「嘘だぁ……」
「本当」
「じゃあ“別れるなら解放してやる!”って言われたら?別れた?」
「別れただろうね。愛情ってそういうことでしょ」
付き合ってる頃は“好き”とか“愛してる”とか言わない人だったのに。
変わったな、彼も。
「弱味って結局、自分が絶対守りたいもののことじゃん。人間の急所と一緒。命懸けで守りたいもの」
.
“本当に守りたいものの為なら、俺は自分のことなんてどうでも良いわ”
.
隆二さんの言葉を思い出す。
同時に“隆二”と呼び掛けたあの声も思い出して、私は頭を振りたくなった。
「A」
「ん?」
「相手の感情に乗せられんなよ」
「え?」
「お前の弱味握ってる奴の感情に乗るな。相手が苛立っててもお前は冷静でいないと。大事なもの、守りたいんだったら」
まるで、部下に言い聞かせるような口ぶり。
でも、だからこそ
「うん」
素直に頷けた。
────家に帰り着いたのは0時少し前。
隆二さんはまだ、帰ってなかった。
今夜は遅くなるかもしれないことは聞いていたけど、
誰と一緒なのか想像して胸がざわつく。
“相手の感情に乗せられんなよ”
そう、冷静に冷静に。
小田さんのことだけじゃない、さっきの電話のこともそう。
傍に女の人が居たからと言って、二人きりとは限らない。
“隆二”と呼び捨てにする仲の女友達が居たって不思議じゃない。
「大丈夫、大丈夫」
明日は隆二さんから誘われた飲み会。
小田さんのことはそのときに話してみよう。
629人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「芸能人」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年4月17日 19時