疑心暗鬼。 ページ32
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隆二さんが帰国して1週間────。
彼はレコーディングだったりリハーサルだったりで、忙しい毎日。
二人のゆっくりした時間は中々取れなくて、すれ違いのことも多い。
でも、夜寝返りを打った時に隆二さんの体に私の体が触れて“あ、帰ってきたんだ”って分かることや、
家に帰るとシンクに置きっぱなしのマグカップがあって“出掛けるときにバタバタしてたのかな?”って思うこと。
少し多目に残しておいたご飯が綺麗になくなってるのを見たとき。
言葉じゃないメッセージが、私の寂しさを打ち消していた。
「山田ー」
部長に呼ばれ、私は「はい」と椅子を少し引いた。
「今やってる現場」
「あ、はい。順調です」
「そのプロジェクト、小田も入れて」
「え?」
隣の純奈のマウスを動かす手がピタッと止まったのが見えた。
「小田さんですか?」
「何か……やる気ないわけじゃないんだろうけど、ちょっとフワッとしてるって言うか」
クールビズが始まってネクタイのないワイシャツの首もとを撫でながら、部長がため息をついた。
「設計部に配属されたの本意じゃなかったみたいで」
「設計部に!?来たくなかったってことですか!?」
そう口を挟んだのは純奈だったけど、私も同じ感想。
意匠設計を担うこの部署は言わば会社の“花形”
学生時代に何を専攻していたかに寄るところもあるけれど、設計部に行きたくないという人を聞いたことがない。
でも、人には向き不向きもあるし、実際入ってみたら思ってたのと違ったってこともあるだろう。
「それで……フワッとしてるからうちのプロジェクトに?」
「そうそう!山田イズムみたいな?そういうのを見せてほしいなって」
「あー山田イズムね!ありますよね!Aにはありますよ!」
「ねぇぇぇよ!」
入社して10年にも満たないのに“イズム”なんてあるわけない。
「あの、大丈夫ですか?私アイアンマンとかメデューサとか呼ばれてますけど……」
「アイアンマンとかメデューサとか呼ばれてるけど山田のこと嫌ってる奴誰もいないよ。山田の仕事の仕方盗もうとしてる奴ばっかり。だから小田にも刺激になるんじゃないかと思ってるんだけど」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年4月17日 19時