夢。 ページ10
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2016年から始まったツアーが、残すところ8月の札幌だけになったこの日。
福岡から帰京した隆二さんを、私は彼の部屋で待ち構えていた。
今日の献立はアスパラと豚肉のしょうが焼き、パプリカのマリネ、グレープフルーツのゼリー。
疲れが取れそうなメニューにしてみたけど、福岡でたらふく美味しい物を食べてきた隆二さんのお口に合うかどうか……。
「あ!帰ってきた!」
鍵を開ける音と共に玄関に飛び出した私。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
ただいまの“ま”の音がちょっと溜め息混じり。
でもこれは移動の疲れから来るものだと分かってる。
「はーい、帰ってきたよー」
隆二さんにギュッとされ、私は肩をすくめて口角を上げる。
この、甘い匂いだ。
この匂いが私の嗅覚に届くと、彼が帰ってきたと心の底から思える。
「先にお風呂?」
「んー……そうする。一緒に入るでしょ?」
「うんうん」
「風呂出たらさ」
「うんうん」
「例の大事な話。するから」
「う……はい」
空振りに終わったあの日から、5日越しの“大事な話”
私はリラックスとは程遠いバスタイムを終え、濡れた髪をタオルドライしただけで食事の準備を始めた。
「髪、乾かさなくて良いの?」
ダイニングの椅子に腰を下ろした隆二さんは、先に用意したビールに手もつけず私の頭を指差した。
「う、うん。良いの」
大事な話が気になってそれどころじゃない。
「じゃあ、食べましょう!」
「はーい。いただきます」
手を合わせた隆二さんはまずお味噌汁から飲んで「はぁ」と息を吐いた。
「これ飲むと帰ってきたーって感じする」
「本当?良かった」
にこやかに相槌を打ちながらも、私の頭の中は“いつ?大事な話いつする?”でいっぱい。
「あのさ」
「は、はい」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時