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「そっかそっか。では私でよければ。どうぞ、ゆっくりしてって下さい」
岩ちゃんは「ありがとう」と微笑み、デッキの上で足を崩した。
「何か、大変だったんだって?」
「ん?あ……“どいて……”事件?」
「そうそう」
私たちはクスクス笑い、その笑い声に樹の枝に留まっていたスズメが飛び立った。
「男はさぁ、大事にしてる子に認めて欲しいから色々頑張るんだよねー。だから失敗したときは必死で隠そうとする……隆二さんは嘘つけない人だから隠しきれなかったんだけど」
「うん」
「八つ当たりができる相手って、本音をぶつけられる相手なんだよね。心を許しているってこと……ってこれじゃAちゃんのフォローになってないか」
「ううん!隆二さんが私に心を許してくれてるなら嬉しいです。八つ当たりばっかりじゃ嫌ですけど……」
「だよねー。今度八つ当たりされたら……」
岩ちゃんはそこで言葉を切って、風に光る芝生を見た。
「今度はないか。隆二さんだから」
「うん……でも、今度は私ももうちょっと余裕を持って受け入れられるかなって思います」
「押し退けちゃば良いのに。“どいて”って」
「ふふっ。でも隆二さんは思い通りにならないことや、諦めなきゃいけないことがたくさんあるから。だけど……私は彼の思い通りに振る舞うことが出来る」
「思い通り?」
「言いなりって訳じゃないですよ?隆二さんがして欲しいこととか、やりたいこととか、私が分かってあげられる事ならしてあげたいなって」
「なるほど」
岩ちゃんはお茶を飲み干し短く息を吐いた。
「Aちゃんは、根っこが凄く強い人なんだなぁ」
「私?」
「どんなに大木に見えてもさ、ちょっとの風で倒れる人も居るから。Aちゃんは儚げな花なんだけど、根っこがしっかりしてるから絶対倒れない」
「そ、そんな立派なものじゃないです私……」
「そんなことないよ」
「……じゃあ、岩ちゃんの御墨付きってことで」
「はい、そういうことで」
二人で目を合わせて笑い、私は2杯目のお茶を注ぎ入れた。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時