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私は膝を抱えたまま、庇から不規則に落ちる雨粒の数を数えた。
ひとつ、ふたつ……みっつ。
「ごめん」
4つめの雨粒を待たず、隆二さんに視線を移す。
「ごめん。傷付けた」
私は小さく首を横に振る。
「Aに八つ当たりした。そういう思いさせるつもりじゃなかったんだけど……」
「うん」
「今夜、話した事って言うのは、」
「いい」
「え?」
「言わなくていい。意地張ってるんじゃなくて、隆二さんは仕事上言えないことあって当たり前だから……だから無理して言わなくてもいいです」
涙でそこだけ色が濃くなっているデニムの膝を隠すように手を置き、私は少し深呼吸をした。
「隆二さんが話したくなったら教えて下さい」
隆二さんは黙って頷き、私は笑顔でそれに応えた。
「それに、私本当に傷付いてません。隆二さんの見たことない姿にビックリしただけ。何て言うのかな……隆二さんだって負の感情でいっぱいになるときあって当然で」
「うん……」
「これから一緒に暮らすんですもんね。そういう部分も見せて貰えて良かった。24時間かっこいい隆二さんじゃ私も気が抜けないし!」
「そっか……」
隆二さんの整った眉と唇に、柔らかさが戻ってくる。
「でも、今日の俺は本当になかった。ほっといてって……あんまりだよね。自分でAのとこ帰ってきといて……何かAの顔見たら急に色んなこと我慢できなくなって。ごめん」
「……そう言ってくれたら良かったのに。それで隆二さんがスッキリするなら、私はそれで良いんです」
ベンチの上に置かれている隆二さんの手に、私は自分の手を重ねた。
「隆二さんは私のヒーローでファンの人にとってもヒーローでしょ?主人公的な意味でもカッコよさでも」
「そう思ってもらえてると良いけど」
隆二さんは首をかしげて、少し微笑む。
「隆二さんはね、傍に居てくれるだけで私を強くしてくれるヒーローなんです。だから……私の前では戦うヒーローにはならなくて良いよ?」
「……え?」
「今日は疲れたとか、最低最悪だったとか、ムカつくことがあったとか……そういうこともぶつけて欲しいです。男の人が、そういう部分見せたがらないの分かってるけど……」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時