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「一人だけ帰りにくいですよね。分かりました、じゃあご飯は冷蔵庫入れときます。食べられそうだったら食べてね」
“うん……A”
「ん?」
暫しの、沈黙。
“……いや、何でもない。先に寝てて良いから”
「そんなに遅くなる?」
“話があるから……うん”
「そっか。うん、分かった。気を付けて帰ってきてね」
隆二さんの歯切れの悪さを不思議に思いながら電話を切り、私は仕上げたサラダにラップをかける。
「キャバクラ行ってたりしてー」
一人で“ぷっ”と吹き出し、料理を全て冷蔵庫にしまいこんだ。
───隆二さんが帰ってきたのは、夜中の1時を過ぎた頃。
先に寝てて良いからと言われても、何となく起きて待ってしまう女心。
さっきからカチャカチャと鍵を開ける音はしてるけど、隆二さんは一向にうちに入ってこない。
鍵が上手く開けられないんだと思う。
「これは相当酔ってるな……」
私は玄関に向かい、中から鍵を開けドアを開いた。
「おかえりなさい」
引き摺るような足取りで玄関に入ってきた隆二さんは、ややこしい足踏みをしてるみたいに靴を脱ぎ、
脱いだ靴をひっくり返したまま部屋へ上がった。
パタンと閉まった玄関ドアの風圧に、アルコールの匂いが押し流される。
「大丈夫ですか?」
「うん」
「隆二さんどのくらい──」
どのくらい飲んだの?と聞こうとした私の体を、
.
.
「どいて」
.
.
隆二さんは手の甲で押し退けた。
.
.
リビングへと続く廊下の壁に片手を這わせながら歩く彼の姿を、
私は押し退けられた体勢のまま、何も言えず
ただ黙って見つめていました。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時