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「すごいよ。有り得ない話だけど、彼らが辞めるって言った途端、株価下がるかもしれないんだから」
「株価……」
私は、会社の一部、歯車のひとつ。
だけど隆二さんは、そんな小さなものじゃなくて、隆二さん自身が動いていかなきゃいけない立場。
「大変だよなぁ……思い通りにならないことも、やりたいのに出来ないことも……いっぱいあるんだろなぁ」
「そう……だよね」
「Aもな」
「私?」
「ああいう人の彼女大変そう」
「そうでもないよ?だって……ニューヨークで6時間一人ぼっちにされたりしないし」
「根に持ってんなコノヤロー」
私と嵐士はそのあと少し話をして、同時にベンチを立った。
「じゃあ、また連絡する。純奈ちゃん料亭に連れてかなきゃだから」
「料亭じゃないよ。“高級”料亭」
「そうだった」
嵐士は人懐こい笑顔を浮かべ、後部座席に乗り込んだ。
「じゃあね。また。仲良くしろよ?」
「うん。嵐士も仕事頑張ってね」
車を見送ったあと、私はポケットに畳んで入れていたミニタオルを取り出した。
「………」
例えば、私のイラストがプリントされたミニタオルが欲しいからと言って、何回もガチャをする人は居ない。
でも、隆二さんには居る。
“自分自身が主力商品”
今更すぎて当たり前すぎる現実を、私は改めて噛み締めながら家路についた。
「ただいまー」
声をかけたけど返事はなくて、リビングは真っ暗。
「隆二さんまだか……」
急な仕事でも入ったかな?と思いながら私は手を洗い、夕食の支度に取り掛かる。
魚がグリルで弾ける音、野菜を切る音、ご飯が炊き上がる匂い。
いつもの夜の雰囲気に混じって、テーブルの上の携帯が鳴った。
私は濡れたままの手で、つまみ上げるようにして携帯を耳に当てる。
「もしもし?」
“あ、もしもし。俺”
電話は隆二さんから。
「今から帰ってくる?」
“今、上の人と飲んでて”
「上の人……」
そっかそっか、と頷き私は携帯を持ち変えた。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時