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「鶏が良いな」
「煮ますか、揚げますか、焼きますか」
「焼きます!」
「じゃあ……めっちゃ古い感じの店でも良い?」
「古い?」
「そう。ビールケース引っくり返したやつがイスみたいな店」
「行く行く!そういう雰囲気好き!」
お店ひとつ選ぶのも、隆二さんとならイベントみたいで私はテンションが上がりっぱなし。
「隆二さん、そういうお店行くんですね」
「なんで?」
「予約が要るようなお店ばっかり行ってるのかな?って思ってたから」
「あぁ……そういう店も行くけど、Aには──」
「古いお店で充分?」
「違う!」
繋いでる手を、隆二さんが抗議の意味を込めて少し引っ張っる。
「Aには美味しいの食べさせたいじゃん。雰囲気とかじゃなくて、本当に美味しいの」
でしょ?と小首を傾げた隆二さんに、私は笑顔で頷いた。
「ありがとう、隆二さん」
「いーえー」
ちらほらとお酒の匂いとすれ違い始める新宿の街。
大ガードをくぐって暫く歩くと、隆二さんが目指すお店が見えた。
「あそこ?」
「そうそう。席空いてると良いけど」
ガラガラと音を立てる引き戸を開けると、中から焼き鳥の良い匂いと話し声が飛び出してきた。
「二人なんですけど」
忙しなく動いている店員さんが「どうぞ!」と真ん中辺りのテーブルを勧めてくれた。
カウンター数席と、テーブルが10卓。
引っくり返したビールケースの上には、手作りっぽい座布団が置かれている。
モクモクの煙の中、私は隆二さんに少し顔を近付けた。
「こういうお店、楽しいですね」
「このモクモクがね、煙幕になって俺ってバレないしね」
私たちは顔を付き合わせて笑って、まずはビールを頼んだ。
つついたら倒れそうなお洒落なグラスビールじゃなくて、今夜はジョッキで乾杯。
隆二さんは喉仏を滑らかに動かして一気に半分飲んだ。
「惚れ惚れする飲みっぷりですね」
「また惚れたの?」
「惚れっぱなし」
へへっと笑った隆二さんが、私にメニューを差し出す。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時