風薫る候。 ページ19
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「先輩先輩」
ほとんど椅子からずり落ちそうな体勢で、私は後輩からの呼び掛けに「はい」と答えた。
「このモテ仕草ってやつ、どう思います?」
「……ん?」
後輩が広げている雑誌のページをちらりと見て、私は喰わえタバコのようにポッキーを口に入れる。
「モテ仕草とかさぁ、モテない人が考えたんじゃん?」
「え?」
「モテる人はそんなこと考えなくてもモテるじゃん。モテない人がどうやったら可愛く見えるかなぁ?って考えたのがモテ仕草でしょ」
「あ……」
「そんなのアテにしちゃダメだよ。ありのままの自分を受け入れてくれる人見つけないと」
ポリポリとポッキーをかじりながら、私は天を仰いだ。
「じゃ、じゃあ先輩の彼氏はありのままの先輩を受け入れてくれてるってことですね!?」
「うん……最近全然会ってないけど」
隆二さんと会えないまま、3週間が経とうとしていた。
連絡手段はほとんどLINE。
時差もあるし、隆二さんは遊びに行ってる訳じゃないんだから、電話できないのは仕方ないって分かってる。
でももう、身も心も干からびてしまいそう。
「先輩は、デートめんどくさいときないですか?私、今夜デートなんですけど」
「良いなぁ羨ましい……って言うかいつ彼氏出来たの?一緒にツリー片付けたときそんなこと言ってなかったよね!?」
「最近です。で!朝、シャワー浴びながら色々お手入れしようと思ったんです。でも何かめんどくさくなっちゃって、右足だけ剃ってシャワー出てきました」
「じゃあ彼氏は今夜左足触ってビックリするね」
「多分……。先輩、そういうの完璧にするタイプですか」
「私、大学の時に全身脱毛した」
「まじっすか!?じゃあ先輩の彼氏はいつでもツルツルの先輩に触ってるってことですね!?」
「うん……最近全然触られてないけど……あ"ーー!遠いなぁ!西海岸はよぉ!」
「先輩……」
“メデューサご乱心”の噂が部内を駆け巡り始めたのを薄々感じながら、私は自宅に帰って一心不乱に料理を作った。
何かに集中してないと隆二さんのことで頭がいっぱいになってしまう。
一人の部屋は、何だか暗い。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時