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そのまま現場に出て、足場の細い階段をのぼり、建設中のビルの一番高い場所まで。
図面を指でなぞってから顔を上げると、向こうには絶賛圧接中の職人さん。
どことなく背格好が隆二さんに似ていて、私はぼんやりとその姿を見つめる。
……隆二さん、今頃もう収録してるかな。
直行便で10時間の距離じゃない。
今は、新幹線で会いに行ける距離。
なのに、会えない。
東京が、空より遠い────。
「何か間違ってますか」
ふいに声をかけられ、私は我に返った。
「俺、何か作業間違ってますか」
圧接の職人さんは、私があまりに見つめているので不思議に思ったんだろう。
「あ、ごめんなさい!大丈夫です!」
私は“すみません”と頭を下げ、職人さんに背を向けた。
その瞬間、内ポケットからメールの通知音が鳴って、私は胸元に手を入れる。
メールの内容は、出張の領収書を早めに出してほしいと言う業務連絡。
“了解”と、返信するために“り”をタップすると、
予測変換に“隆二”の文字。
────もう、何を見ても隆二さんで、何を聞いても隆二さん。
彼のことばかりを思ってしまう。
電話じゃなくて、傍でその声を聞きたい。
.
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結局その日、隆二さんからの連絡はなかった。
私はホテルの枕が合わなかったことを言い訳にして、眠らずに窓から空を見上げていた。
誰かに会いたくて眠れないなんて、どうかしてると思うんだけど
だけど……
隆二さんの腕の中で体を丸めて眠れたら、どんなに幸せだろうって想像してしまう。
隆二さん。
どんなに遠く離れてるときでも変わらないものがあるの。
あなたが朝日を浴びる頃、私はこうして星空を見上げてる。
あなたがベッドに入る頃、私は朝日に願ってる。
あなたの1日が、幸せであるようにと────。
.
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4月17日
夢で逢えたら。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時