願い。 ページ15
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────春は、出会いと別れの季節。
隆二さんと暫しのお別れをしている私にも、出会いはやってくる。
眩しいほどに新鮮な色味を帯びている新入社員のみなさんとの出会い。
純奈は指導担当になり、新入社員のみなさんを引き連れて会社の案内をしている最中。
だけど、私はそんな彼女の姿を見ながらデスクに頬杖をついていた。
1時間前、ロスに経ってから4日ぶりに隆二さんから連絡があった。
来月一時帰国するよ、という小躍りしたくなるような連絡。
だけど私は小躍り出来なかった。
隆二さんの一時帰国と、私の出張が見事に重なっていたから────。
「はいはーい!ここに居るのが設計部の“鉄の女”山田さんです。アイアンマンって呼ばれてます」
何故か私の紹介が始まって、私は純奈をチラッと見上げる。
「山田さんはねぇ、将来絶対役員になる人だから。みんな!今からゴマ擦っときな!」
新入社員のみなさんの12個の瞳が一斉に私に向けられ、
「はぁ……」
私はため息をついた。
「純奈、私の紹介終わったらもう行って」
「う、うん」
いつもなら“何言ってんの!?”と突っ込むところだけど、今の私にそんな元気はない。
10日ぶりの隆二さんとの再会が、流れてしまったのだから。
「新入社員のみなさんも頑張って下さいね」
ニコッとしたつもりだったけど、新入社員のみなさんの表情は固まっている。
────この出来事がきっかけで、私はアイアンマンじゃなくて
“メデューサ”と呼ばれることになるのだけど、それはまた別の話。
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「あー……それは残念だよね」
その日の昼休み、洗面所で歯磨きをしながら私は純奈に愚痴っていた。
「タイミング悪すぎたぁ……」
「まぁ、仕方ないよね。右の人の予定に100%合わせようと思ったらAが仕事辞めてフリーターとかなるしかないもん。でもそれは出来ないもんねー?」
「出来ない」
仕事をしていない自分が想像できないし、大体私、建築以外の何が出来るの?
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年3月8日 21時