3 ページ12
・
隆二さんはお箸を置き、テーブルの上で身を乗り出すようにして私に近付いた。
「ホームステイ終わったらさ、Aに甘えるわけでもなく、Aに寂しい思いさせるでもなく……ってタイミングがやっと来るから」
“長い時間帰ってこれないこともあるし、今一緒に暮らしてもAのこと結局一人にさせる。俺はAに甘えちゃって、Aは寂しい思いして……ダメだよね、それ”
私が急に福岡に飛んだ夜、隆二さんが言ってた台詞を思い出した。
隆二さんの言う“タイミング”が来たんだ。
「２ヶ月の間に、あの空き部屋良い感じにしといてよ？」
「は、はい！それは勿論です！」
私は隆二さんの部屋のリビングに置かれているピアノをチラッと見た。
「こ、これは業者さんが運ぶんですよね」
「うん？あ、そうそう。ちょっとずつ荷物運んでいこっかなぁ……春になったらね」
「春になったら……ですね」
私は春を越えた次の季節を想像する。
隆二さんが日本に帰ってきて、一緒に暮らすようになって……
「何かニヤニヤしちゃう」
口を手で覆った私の瞼に、隆二さんが小さなキスをした。
「良かったー。“やっぱ気が変わった”とか言われなくて」
「当たり前じゃないですか！でも……隆二さんこそ本当に良いの？一緒に暮らして、しかも私の家に来てもらう形で」
「良いよ？休みの日にあのデッキでまたアイス食べるの楽しみー」
顔を見合わせて微笑んだあと、二人で食事を済ませ私は洗い物に取り掛かることに。
泡を流す音に混じって聴こえるのは、ピアノを軽く鳴らす音。
何か弾くの？と目で訊ねた私に、隆二さんは姿勢を正して鍵盤に指を置いた。
ポロン、と転がすように始まったその曲に、私は「えっ」と顔を上げる。
始まったのは“黄昏のビギン”
随分前、母が洗い物をしながら口ずさんでいた歌だと言ったことを隆二さんは覚えてた────。
隆二さんは“どうぞ”という風に笑顔で私に目配せして、
私は照れ笑いを浮かべ唇を開いた。
「雨に濡れてた────」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 672人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「今市隆二」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽち。
| 作成日時：2019年3月8日 21時
