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「へぇ……。あー、赤ちゃん可愛い」
「聞いてくれよ!俺の話!」
「聞いてる!」
本当かよって表情をした隆二さんは、昼食のスープを飲み干し、私の携帯の画面を覗き込んだ。
「何人欲しい感じ?」
「子供?真由はねぇ……」
「違う違う。A」
「え?」
“今日は天気が良いね”みたいなリズムで訊かれた質問に、私は答えをつまらせる。
「どう……だろ?分かんない」
キュッと口角を上げ、食べ終わった食器をシンクに下げた。
私は何となく……母親には向いてない気がする。
可愛い赤ちゃんも、いつかは私たちみたいに一人立ちする。
その過程で普通の母親がどう接するのか、よく分からないから。
子供が好きなことと母性は、イコールじゃない。
「あ!隆二さん。大阪のホテル取れました!」
「本当?良かった良かった」
大阪公演を全て終えた20日に、隆二さんと私は家があった場所に行く予定を立てた。
“本当に守りたいものの為なら、俺は自分のことなんてどうでも良いわ”
隆二さんが言ってくれた言葉を思い出しながら、私は雑誌をめくっている彼の横顔を眺める。
「……ん?どした?」
普通の人なら“面倒臭い”と思うようなことを、隆二さんは引き受けてくれる人。
本当に勇気のある人は、こんな風に温和だ。
「隆二さんは、奇特な人ですね」
「奇特?なにそれ?」
「……教えない」
「なんでだよ」
奇特とは、変わってるとか可笑しいという意味じゃない。
言行や心がけが優れていて、褒めるに値する様を表す言葉。
隆二さんは、間違いなく
奇特な人────。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年2月5日 20時