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でも、ここには雨に混じって光るフラッシュはない。
あるのは、隆二さんと私と
繋いだ手のぬくもりと、二人の笑い声だけ。
「見えてきた！」
どうやら今日はお休みらしいお店まで辿り着いた私たちは、少し軒先を貸してもらうことにした。
「やべぇー、びちゃびちゃ」
二人で海にでも潜ったみたいに全身ずぶ濡れ。
「はぁ……走りましたね」
「２日ぶりくらいにまともに動いたな」
持ち上げていたワンピースの裾を両手で絞ると、じょぼじょぼと音を立てて水が滴った。
「す、すごい……」
濡れた髪を手で撫で付けた隆二さんがそれを見て笑って、私も何だか可笑しくなってくる。
「いやぁ……どうすっかなぁ、これ」
軒先の竹樋から滝のように流れ落ちる雨を見上げる隆二さんの頬を、髪から垂れた雨が濡らしている。
遠くを見る隆二さんの顔立ちは、雨にうっすらと濡れ、一層引締って見えた。
私はまた見惚れてしまわないように少しうつ向き、髪をかきあげてから顔を上げる。
────瞬間、ふっと時間が止まったように隆二さんと目が合った。
「…………」
「…………」
私たちはどちらからともなく唇を寄せ、
雨のカーテンに隠れるみたいにキスをした。
隆二さんの手が背中に回され、私も少し背伸びをして彼の首に腕を絡める。
呼吸をする為に１度唇を離したあと“もっとしよう”と言うみたいに、隆二さんの手が私の頬に添えられた。
私もそれに答えて、雨で冷えたお互いの唇を長い時間温めあった。
寂しくも悲しくもないのに、何だか切なくなるようなキス。
写真の話をしたせい？
それとも、好きで好きで、切なくなったせい？
.
.
.
────隆二さんは覚えてますか？
スコールのあと、虹が出たこと。
草木がたくさんの雨を浴びてキラキラと輝いて、言い表せないほどきれいだったあの虹を。
虹を撮るために携帯を取り出そうとした隆二さんが、
何も撮らないまま、それをそっとポケットにしまったこと。
１年以上経った今でも、私は鮮やかにはっきり思い出せるよ。
隆二さんも、同じだと良いな。
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2019年2月5日 20時
